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第523回 面白「そうな」本たち

2023-05-12 | エッセイ
 HONZ(https://honz.jp)というノンフィクション本を専門に紹介するサイトがあります。私が最も関心あるジャンルですので、チェックが欠かせません。IT系企業の社長なども務められた成毛眞(なるけ・まこと)氏が主宰し、お仲間と共に自らも健筆をふるっておられます。  
 そんな氏の「面白い本」(岩波新書)は、コンパクトで的確な紹介ぶりで、つい「読んだ気」になってしまいました。読んでいませんので、ちょっとズルく、「面白「そうな」」とのタイトルになっています。その点はご容赦いただき、私なりのセレクト5冊をお楽しみください。

★1000年生き続ける象形文字
 中国・雲南省のナシ族の人たちが今でも使っている象形文字が、「トンパ文字」です。漢字も元は象形ですが、今は形式化、簡略化されています。「トンパ文字ー生きているもう1つの文字」(王超鷹著 マール社刊)で紹介されるのは「絵文字と象形文字の間にとどまったまま、いまに受け継がれ、社会で通用している、まさに、生きた文字の化石だ」(同書から)
 表紙から文字の部分だけを拡大しました。楽しそうですね。

 全体の半分が「トンパ文字総覧」に当てられているとのことで、1000年もの間、守り伝えられてきた奇跡の文字の意味するところを「絵解き」して楽しむこともできそうです。

★こんな破天荒な人生もある
「ザ・ビッグイヤーー世界最大のバードウォッチング大会に挑む男と鳥の狂詩曲」(マーク・オプマシック著 朝倉和子訳 アウペクト刊)の内容は、副題通りです。北米大陸で1年間に見つけた鳥の種類の数を競う大会(ザ・ビッグイヤー)で、審判はいず、数はあくまで自己申告です。
 中には、飛行機や船をチャーターし、1000万円以上のカネをかけ、40万キロ以上を飛び回る参加者もいるといいます。「どちらが鳥なのか、わかったものではない」(同)とのコメントが笑えました。

★不老不死が実現?
 世界で初めて研究室内で培養されたヒトの不死細胞の発見について書かれたのが、「不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生」(レベッカ・スクルート 中里京子訳 講談社刊)です。
 タイトルにある「ヒーラ」は、世界初の不死化したヒト細胞のコードネームです。この細胞の持ち主は、ヘンリエッタ・ラックスという黒人女性で、彼女の子宮頸がん細胞が、偶然にも無限に増殖する不死の特性を持っていました。いまやヒーラ細胞は、数兆個単位で培養され、世界中の研究所に出荷されています。ポリオワクチンや体外受精、クローン作製など、医学の重要な進歩にも関わっています。
 しかし、当のヘンリエッタ・ラックスはすでに他界し、自身の細胞がこれほどの科学的貢献をしていることを知りません。また、彼女の遺族には何の見返りもありません、彼女の娘さんの言葉が引用されています。「もしあたしらの母さんの細胞がそんなに医学に役立ったんなら、なんでその家族には医者にかかる余裕がないんだろうって、いつも思う。」(同)
 不老不死という夢の前には、もっと大きな壁が立ちはだかっているようです。

★ヒトラーが偽札を作っていた
 ナチス・ドイツが第2次世界大戦中に行った史上最大の偽札の全貌を描いたのが、「ヒトラー・マネー」(ローレンス・マルキン 徳川家広訳)です。1944年から45年まで、イギリス経済の混乱を狙って実施されました。そこで集められたのはユダヤ系の印刷技術者です。
 彼らは、ポンド札に使われているインクと同じ持ち味のものが「ブドウの蔓から作った炭を亜麻仁油で煮立て作った「フランクフォート・ブラック」である」(同)と突き止めます。偽札に気づいたイングランド銀行も、100万枚ごとに偽造防止の仕掛けを仕込みます。しかし、ユダヤ系技術者たちは、仕掛けをことごとく見破って、追随したといいますからスゴいです。
「その結果やいかに」と成毛氏は気を持たせています。やっぱり読むしかないのでしょうか。

★チームを強くするマネーの使い方
 野茂、イチロー、松井、そして最近は、大谷翔平選手などの活躍で、すっかり身近になった大リーグ。2000年からの7年間で、それまで弱小であったオークランド・アスレチックスを4回の地区優勝に導いたオーナーが、ビリー・ビーンです。
「マネー・ボール 奇跡のチームを作った男」(マイケル・ルイス 中山宥訳 RHブックス・プラス)で、チームを強くする彼の経営戦略が明かされます。彼が、打者で最も重視したのが、「出塁率」です。ヒットに限らず、四球でも、エラーでも、とにかく出塁した率が評価されます。ホームラン、打点、打率などに比べれば、地味な数字です。
 でも、この数字を基本に「格安な」選手を集めてのチーム編成が見事に成功し、先ほどの結果につながりました。コストは抑えて、強いチームを作るという逆転発想、ベースボール・イズ・マネーの球団経営でした。
 いかがでしたか?成毛氏は他にも同種の本を何冊か出しておられます。シリーズ化して、おいおいご紹介していくつもりです。ご期待ください。それでは次回をお楽しみに。