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第458回 蜘蛛(クモ)はスゴい

2022-02-04 | エッセイ
 行きつけの店の先代マスターと話していて分かったのは、彼は蜘蛛(クモ)が大好きで、日本蜘蛛学会の会員としても活動するほどの惚れ込みようだということ。その時は「物好きだなぁ」と思った程度でしたが、そのあと、あるテレビ番組を見て、大いに関心をそそられました。

 その番組とは、Eテレの「ヘウレーカ!」です。作家の又吉直樹をガイド役に、専門家の先生との実験、観察などを通じて、最新の研究成果をじっくり、楽しく見せてくれる良心的な番組でした(残念ながら、2021年3月に終了しました)。
 そこで「クモ」が取り上げられ、彼らの生きる知恵、仕組みのスゴさに圧倒されました。そのエッセンスをお伝えすることにします。名前に馴染みがあり、番組でも主役扱いの女郎蜘蛛です(「教育的配慮」からか、番組では「ジョロウグモ」と表記されていたのが笑えました)。



★網作り★
 なにはさておき、「巣」作りです(一般には「巣」と呼ばれていますが、専門家は「網」と呼んでいますので、以下、それに従います)。約4万9000種いるうちで、網を作るのは半分くらいとのこと。それにしても、親から教わるわけでもなく、空中の、ほぼ2次元の世界で、しかも「一筆書き」で、あれだけの網を作ります。加えて、網を作るクモはほとんど目が見えないというのですから。クモの身になって、あの作業をすることをちょっと考えてみただけで、その困難さは想像を絶します。あの小さな体の脳の中に、それをやってのけるだけのノウハウ、設計図が組み込まれているのが、まずもって驚異です。

★タテ糸とヨコ糸★
 種類により網の形は様々です。よくあるパターンを思い描いていただいて、網の中心から放射状に張られているのが、タテ糸で、丸く渦巻き状(一筆書きですので)に張られているのが、ヨコ糸です。で、ネバネバがあるのは、ヨコ糸だけなんですね。ネバネバの正体は、特殊なタンパク質だそうで、身を削って出すわけですから、材料節約を図っています。
 そしてもうひとつ。獲物がかかった時、タテ糸を伝えば、ネバネバにひっかからず、獲物に素早く到達できる工夫です。なんと合理的な仕組みでしょう。

★振動を感じる★
 先ほども書きましたように目はほとんど見えません。いわば網全体を感覚器官のようにして、獲物がかかった振動を感じ取る能力を身につけています。番組では、先生が電動歯ブラシの振動(毎秒250回ほど)している先を網に当てると、1秒ほどでクモがやってきました。早っ。
 風とか、葉っぱが引っかかったくらいで移動していては、ムダです。なので、ミツバチなどの毎秒300回くらいの羽ばたきの振動にだけ反応するようになってるとのこと。う~ん、なるほど。

★頭がいい証拠★
 クモの知能の話になりました。先生は、かつてこんな実験をしたそうです。網に獲物を置きます。クモが取る寸前に、獲物を取り除きます。何度か続けていると、クモは、網のその箇所の糸と糸の間隔を縮める作業をしたというのです。
 獲物が逃げたのは、糸と糸の間隔が広過ぎたから、と判断したんですね。原因を推測し、対策を講じる。こりゃ相当の知能と言わざるをえません。それ以外にも、破れた箇所の補修、葉っぱの除去など、こまめなメンテナンスが欠かせないと聞いて、そのけなげさに同情したくなりました。

★命がけの交尾★
 交尾期のメスにヘタに近づくと、オスは食べられてしまいます。メスにとっては、産卵、子育てのための食糧源ですから。オスも、そういう形で自分の命が繋がれば、と割り切ってるのかどうかは分かりませんが、命がけです。
 しからばどうするか。番組では、取材中にたまたま撮影されたきわめて貴重な映像が流されました。ほかのエサを一心に食べているメスにこっそりと忍び寄ったオスが、すばやく上に乗って、交尾を済ませたのです。メスは口が塞がってますから、食べられることもなく、目的を果たしたオスは素早く逃げました。
 先生の研究では、うまくやりおおせたオスの90%くらいが、メスの性器を壊していくというのです。他のオスが交尾できないようにして、自分の命だけをつないでいこうということなのでしょう。

 クモって、外見がグロテスクですし、網も身近にあれば鬱陶しいです。この番組を見て、好きにまではなりませんでした。でも、これからは網を目にしても、あまり支障がなければ、そっとしておいてやろうかな、という気になりました。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。