Rosa Guitarra

ギタリスト榊原長紀のブログです

「T-5」

2010-01-21 | 「T」



「ねぇ、秒針の刻む音が嫌なの
せっかく買ったけど…」


「うん、やめてもいいよ
でも、そんなの買う前からわかってたじゃない?
秒針が付いてること」


「うん、ごめん、ぼーっとしてたみたい」




Tは黙って時計から電池を抜き取り、時計自体をテーブルの一番端に置いた




この時計はこれから先、ずっとここに置かれたまま
きっとその存在は風化してゆくだろう


ここに座る度に目に入りながら
目に入っている事も認識されなくなり
その形状だけが空虚な骸となって


そして骸となったはずのそれから発っせられる信号は
それが時計として存在していた時より
むしろ何倍もの強い切なさとなって自分に届いてくるであろうことまで
一気にTには想像出来た



物言わぬそれを眺めながら
しばらくの間、Tは美しい光景の中を漂った

夢の中で様々な美しい者達に出逢い涙した



そしてこう思った



あぁ…ガラス窓になりたい

一点の曇りも無いほどに磨き抜かれ、それ自体の存在も感じさせないくらい透明なガラス窓

美しい風景を映しながら、冷たい風を遮る

自らの役割を果たすほどに、その存在を忘れ去られるようなものに






コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 1年生 | トップ | 馬頭琴レクチャーコンサート »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。