Rosa Guitarra

ギタリスト榊原長紀のブログです

「靴」

2008-10-25 | 記憶の風景
小学低学年くらいからだったか
夏休みになると毎年、千葉の海に連れていってもらった

叔父の勤めていた会社の療養所があって
療養所といっても多分、普通の民宿と提携してたのではないかと思う

そこに何泊かしてくるのだが
ある年、そこの民宿の子と
何となく友達になった

自分と同じ年くらいで、無口な男の子だった

お互い何となく気兼ねしたような関係だったが
同じ年くらいの男子同士なので、浜辺なんかで一緒に遊ぶのは楽しかった

遊ぶといっても、子供だけの海は危険なわけだし
必ずウチの親がついていた

夕方になると、うじゃうじゃ出てくる弁慶蟹なんかを、バケツ一杯に穫ったりした


岩場に多く現れる弁慶蟹をさがして
浜辺を抜け、岩場づたいに蟹を捕獲しながら
隣の浜まで出たことがある

すると、砂浜に大きなクラゲが打ち上げられていた

直径20センチくらいあったような気がする

紫色の縦線が入った毒々しいやつで
そういうのに男子は目がない
「どうしても持って帰りたい」とバケツの中に入れて民宿まで帰った


僕は、すっかりクラゲに夢中になり
自分の物だと思い込みながら民宿に着くと
その子もクラゲを欲しがっていることが判明した

そこで子供同士の談判が行われていれば良かったのだが
自分が困惑しながら思案してる間に、親が介入した

確か
「私たちは明日、東京に帰るけど、キミはここの民宿にしばらく居るんだろうから
また、クラゲを捕れるだろう
だから、今回は譲ってくれないか?」というような

そして、クラゲは僕の物になった...



次の夏
また、その海へ行った

着いて
東京から履いて来た靴を下駄箱に置いて
そこで過ごすためのゴム草履に履き替え、さっそく浜に出た

少しの時間遊んで、民宿に戻った時
下駄箱に置いてあった自分の靴が無くなっていることに気付いた

浜から国道までの斜面を利用して建っていた民宿の玄関は
2階に当たる場所にあり
窓の外は遮るものがなく、ただ、はるか下に地面が見える
そこに、靴は落ちていた

それを発見した時
子供心に、サッと血の気が引いたのを憶えている

「あの子だ...
あの子が靴を落としたのだ...」

1年前に、大人の存在の前に屈し
傷ついていたのだ


その年、彼は、その民宿に居るはずなのだが
1度も姿を現さなかった

靴を探している時点で、民宿の人にも聞いたりしたから
「お客さんの靴を悪戯して落とした」と叱られたかもしれない


今年、78になる、ウチの父は
その時の経緯をハッキリ憶えていなかったが
僕は、ハッキリ憶えている


自分がクラゲを手に入れたことと引き換えに、その子に負い目を持ったこと

その子が受けた不条理の
行き場の無い思いが、靴を落とさせたこと

それを、よくわかっているのに
その子を庇えなかったこと


2年に渡り
僕は、その子に負い目を持った



そして
こういう記憶の中の自分が
今の自分に、明らかに繋がっている

もう逃げたくない

そう思う心の出発点の一つになっている
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