楽器を練習していて疲れたので休憩をとった
たとえ練習であっても
楽器の演奏は
非日常な集中を必要とするから
休憩に入るとすぐ僕はボンヤリする
ボンヤリすると同時に瞑想状態に入る
意図して求めたわけでもないのだが
肉体的な訓練の直後に
内観する作業に入ることになる
こんなことを考え始めた
持ち物が複数の鞄などに分かれて入ってることを
僕は管理し続けられないので全てを1つの鞄にまとめている
マメじゃないから入れ替えも面倒だし
入れ替えなどしていると必ず忘れ物をするに決まってるから
季節が変わっても洋服が変わっても
TPOなど構わず鞄は絶対1つのものしか持たない
昔は、売られてる物の中で一番小さな手帳を財布のカード入れの部分に差して
お金とスケジュールと電話帳をやはり1つにまとめて使っていたが
携帯にスケジュールが記録出来ることを知ってからは手帳も持たなくなった
この手帳というものに
僕はなんとなく依存していたらしく
何年も前の物を捨てずにずっと取っておいたりしたものだが
読み返しもしないくせに捨てずにおくだけで
自分が生きてきた積み重ねが
何か重要な意味を持ってそこに存在しているように感じられて
なんとなく安心を得られていた
携帯にスケジュールを書き込むようになってからも
終わった日のスケジュール記録を消さずに貯めていたが
ある時メモリー容量がフルになり
過去の記録を消さざるを得ないことになった
機能の充実してない携帯だからか
1件1件消してゆくか
1日1日消してゆくか
さもなくば全てを一気に消してしまうか
3つしか選択肢は無かった
面倒だが僕は1日1日消していった
1日消えるごとに
足元がおぼつかなくなるような小さいが確実な不安に襲われた
消したくない想いに囚われたまま
「これでいい、これでいい」と思いながらどんどん消していった
(これはまさに僕の人生そのもの、かもしれない)
軽い自傷行為にも似た消去作業を完了して
直後の僕の心は微妙にささくれている
その状態でまた練習など始めるのだ
そして消してしまうともうそれは
過去の積み重ねという名の日記を整理収納していた書棚が崩壊したことになるから
時間の経過順に升目の中に綺麗に並べてあったものが
玩具箱をばらまいたような無秩序な散らばり方をした
その無秩序に散らばった中で
記憶の鮮烈さの強い順に放つ光り方が強かった
光は様々な色や強さを発していて綺麗だった
あぁ...やっぱり消して正解だった
早く気付けば良かった
升目など最初から要らなかったのだ
升目に綺麗に整理して管理するのは
時間とか日付とか曜日と呼ばれるものと
呼応しながら我々は生活しなきゃならないから
そのための便宜上のものなだけ
こうしてギターのプレイや音色を進化させるための肥料となって
1つの肥料小屋の中に適当に放り込まれる
結局
手帳を捨てずにいた頃も読み返しなどしなかったのだから
肥料小屋にどんどん放り込んでいたのだろう
過去の積み重ねは
ショーケースに入れて眺めていても意味は無い
今を生きるために活用してこそ、である
などと偉そうなことを考えながら
肥料小屋の中にどっぷり浸かりながら楽器の練習を続ける
多分
こういう時の現実の僕は 目の焦点が虚ろで
他人様には浮世離れしてるように見えるのだろうなぁ...
人様の目を気にしながら肥料小屋に遊んでいた若い頃は
見え方も中途半端だったのだろう
何かと躍動感の無い人間、やる気の無い人間のくくりに入れられることが多かったように思うが
今は人目などほとんど気にならないから
「浮世離れしたような」などと 良いように周りが思ってくれる
無駄な摩擦からのエネルギーロスがなく
ありがたいことだと思う
僕はこの肥料小屋に遊ぶ時間を
周りの人に向けて
「現実逃避ですよ」などと謙遜する時もあるが
本当は僕の(恋に次ぐ)快楽の部屋なのだ
快楽は生きる力の源泉である
目に見えているものは
固定された形のまま永遠的に在り続けることは無い
目に映る全ては流れる水のようなものであり
大切な現象だが
人体を流れる血液と同じ
それ自体に意味の本流は無い
心臓にあたるものは
「感じる」という行為
かな...
などと考える
「感じた瞬間」に1つ宇宙が生まれる
宇宙が生まれる速度に
人間の思考など全く追い付けない
極論を言うなら
考えること自体無駄なのだ
考えるのではなく
(甘いも辛いも)感じられるものが多い場所になるべく居ることだと思う
(感じたことを意識した瞬間に、それは意味の無いものになる...とまで
言ってしまうと、あまりにも...なので
ウズウズするけど明言しないことに今日はする僕なのです)
感じられるものが多い場所とは
得てしてチラチラと目に入って来るものが少ない場所だったりする
(よく修行僧が穴暗に隠るのもそういうことなんでしょうね)
喧騒の渋谷スクランブル交差点立ったなら
俗に向く目を閉じれば
穴暗に入ったことと同じ
ついさっき
夕方の柔らかな光の中で考え始めたと思ったが
気付けば陽は落ち暗い部屋の中で独り寂然としていた