子供の頃の僕は、親という防波堤に守られた港の中で生きていました
それが思春期と言う、出航の時期を迎え
嫌でも外海に漕ぎ出さねばならなくなりました
それは、ずっとずっと後になって気付いたのですが
僕以外の誰もが、船出の時期を持たねばならない宿命だったのです
ほんの少し、港の外に出た途端
波はとてつもなく大きく覆いかぶさり
僕という小舟はモミクチャにされて何度転覆したことか...
転覆する度に苦い塩水を呑み、むせ返る...
なんでこんなに波が大きいのだ、とか
何故人間は港を出なければならないのか、
港の中でずっと生きていたって良いじゃないか、とか
僕の生まれた港の外は、特別に波が高い海域で、
それは僕にとって運が悪かったのではないか、とか
ずいぶん他者のせいにしてきたけど
結局その苦痛から脱するには、自分という船を大きくするしか無いと気付いたのは
港を出てからずいぶんずいぶん年数が経ってからでした
僕の船はギターという楽器で出来ていて
昔、港を初めて出る頃には
僕のギターという船は頑強に出来ていて
どんな高波にも負けないと信じ切っていたのです
そして
それが若さという暴力であり、また素晴らしさでもあったのだと気付く頃になって
ようやく僕の船はある程度の大きさを手に入れたのでした
今も波は高いけど
自分の羅針盤さえ狂わなければ
波を読みながら航海してゆける
だからこそ今
落としてきた自分の欠片を取り戻しに行きたいと思うのです
自分の羅針盤を健全に保つためにも...
その羅針盤で更なる航海を続けるためにも...
人は群れる生き物だけど
群れる事を当たり前のことだと容認した人間は群れから追放され
孤独を覚悟した人間が本当に群れる事を許される...
港を出てからずっと
そんな表裏一体の真理に惑わされてきたけど
どんな物象も、その仕組みらしいと気付いてから
僕の羅針盤は簡単には狂わなくなったのです
だから
前進しながら
過去に還ることが
同時に出来る事を知ったのでした
自分が極悪非道なことをしてさえ
羅針盤は狂わなくなりました
それは言ってみるなら
極悪非道とは人間が名付けたものだから
もっと太古の昔...宇宙が生まれた時の法則に遡れば
どこも極悪非道ではないことがわかるようになった
ということ
こんな今の僕の魂の、送信機と受信機があって
それを使ってギターという楽器を使って交信して
僕は自分の送信機が最大出力になるように最大限のエネルギーチャージをして
そして、どんな小さな信号も受信出来るよう最大限のパラボラアンテナを用意する
港を出て以来
皆がどんな波を越えて来たかを確認して
労い合うために
僕がもし...
あなたの想いを受け止められないとしたら
それは僕の受信機能がまだ弱いか
あなたがまだ防波堤の中の守られた世界を引き摺っているか
そのどちらかでしかない...
なんとかして飛びたい
自分一人ではなく
皆で
そう思っているんです