さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

由比の歌 香川景樹『桂園一枝』より

2017年08月12日 | 桂園一枝講義口訳
由比の歌。ここだけ分ける。

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今宵もやまろねの紐をゆひのはま打とけがたき波のおとかな
五五七 今宵もやまろねの紐をゆひの浜打(うち)とけがたき浪の音かな 以上同上 

□これも行きがけなり。帰りがけのは「中空日記」にあり。こゝには多く行きがけなり。「ゆひの濱」の気色は、「中空日記」に出せり。古くは「太刀の緒とけてぬる人の」、又「下紐を解く」などいふなり。「紐」といふも帯に同じものなり。

○これも行きがけである。帰りがけのは「中空日記」にある。ここに(載せたもの)は多く(の歌が)行きがけのものだ。「由比の濱」の景色は、「中空日記」に出した。古くは「太刀の緒とけてぬる人の」、又「下紐を解く」などと言うのである。「紐」と言うが(今の)帯と同じものである。

※「中空日記」より引く。奈良女子大学附属図書館のホームぺージより。
「蒲原 を過て由比にとまる、さて此家の庭さきなる、汀の松などよくよくみれば、くだりつるとき、あまり磯ぎはの波さわがしとてやどりあへず、立出しやど也、さるはかたはらいたくおもてぶせなるこゝちすれど、かれはえ見しらず
  契をやゆひの浜まつかへりきて立よる蔭のなみを見るかな
はたしてこよひねられねば、ひるみれどあかぬ田子の浦といひし、古人の心をも思ひ出られて、やをら起出でみるに、月はいづくよりさすらん、波の上ところどころおぼろに白く、見なれぬけしきもめづらしきものから、いとすごきこゝちすれば引たてゝ入ぬ、いよいよ目もあはず
  あらためていかに枕をゆひの浜春より高き浪のおとかな
十二日、朝とく出て由比川をわたり、寺尾の松原をすぎて(以下略)」。
 ※ 引用に当たり濁点を補った。
現代語訳。
「蒲原を過ぎて由比に泊まる。さてこの家の庭前にある、汀の松などをよくよく見ると、街道を下った時、あまり磯ぎわの波がさわがしいといって宿泊に堪えず、立ち出てしまった宿であった。そういうことだから心苦しいし面目ない気持がしたが、宿の者は覚えていないようであった。

  契を結んでいたためだろうか、戻ってきて同じ由比の浜の松の木陰に寄る波をみることだ。

はたしてこの晩は寝られないので、昼に見て飽きることのない田子の浦(に夜も又)と言った、古人の心も思い出されて、急に起き出してみると、月の光はどこからさすのだろう、波の上がところどころおぼろに白く、見なれない景色も珍しいけれども、とてもぞっとした心持ちになったのでいそいで部屋に入った。いよいよ眠れない。

  あらためてどんな旅寝の夢を結ぼうか、この春の由比の浜は高い浪の音がすることだ。

十二日、朝早く出て由比川をわたり、寺尾の松原をすぎて(以下略)」。






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