源頼朝は工藤祐経を近くに招き寄せた。
「そなたが工藤一臈か?」
と、問うた。
「はい。」祐経は答える。
「そなたには一度会ってみたいと願っておった。」
「・・・・・・」
「やっと、その願いが叶うてうれしく思っている。」
「恐れ入りまする。」
工藤祐経はほっとしたような顔をした。
「わしは伊東入道に少々意趣があってな・・・・」
頼朝は静かに呟いた。
その言葉の意味を祐経は知っている。
頼朝は愛する女性を奪われ我が子の命まで絶たれたという過去がある。
頼朝が愛したのは伊東祐親の娘。
祐親は流人を婿にするという外聞をはばかり娘と頼朝の仲を引き裂き、二人の間に生まれた子の命を奪った。
その話は伊豆に住まうものならば知らぬものはない。
「そなたと伊東入道との間のことも存じておる。」
「はい。」
伊東祐親と工藤祐経は同族であるが、その同族の間で所領を巡る争いがあった。
一時期両者の仲はそんなに悪いものではなかった。祐親の娘が祐経の妻となっていた時期もある。
だが、ある時から両者の仲は急激に悪化した。挙句の果て祐親は娘を祐経と離縁させ、強引に祐経の領地を奪い取ってしまった。
そのようなわけで佑経は祐親を深く恨んでいた。
頼朝と祐経は共に祐親に対して遺恨がある。
「まずは一献。」
頼朝は祐経を側に引き寄せると側にいるものに酒肴の用意を命じた。
「さて、その前に」
頼朝は二人の人物の方に目を遣った。
「そなたに引き合わせておきたい者がある。無論そなたとは初めて会うわけではないであろうが・・・」
頼朝は二人を近くへ呼び寄せた。
「こちらの女人は、伊東九郎(祐清)の後室、そしてこちらはその子じゃ・・・」
二人をみて祐経はぎくり、とした。
「さて、この二人は伊東の後家と伊東の血筋の男子じゃ。そなたとは縁浅からぬもの・・・・」
二人はじっと祐経を見つめる。
伊東の後家は静かに祐経を見据える。伊東の血筋の男子は鋭い刃のような眼差しを祐経に向ける。
その少年の眼差しに祐経はおびえる。
━━ もしや、この子はあの事を知っているのか?
「この二人は、伊東の縁者。故に伊東の領地に深く関わっている。
本来ならばこの二人が伊東を領してもおかしくは無い。」
「!!!!!」
頼朝のこの言葉に工藤祐経は青くなった。
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「そなたが工藤一臈か?」
と、問うた。
「はい。」祐経は答える。
「そなたには一度会ってみたいと願っておった。」
「・・・・・・」
「やっと、その願いが叶うてうれしく思っている。」
「恐れ入りまする。」
工藤祐経はほっとしたような顔をした。
「わしは伊東入道に少々意趣があってな・・・・」
頼朝は静かに呟いた。
その言葉の意味を祐経は知っている。
頼朝は愛する女性を奪われ我が子の命まで絶たれたという過去がある。
頼朝が愛したのは伊東祐親の娘。
祐親は流人を婿にするという外聞をはばかり娘と頼朝の仲を引き裂き、二人の間に生まれた子の命を奪った。
その話は伊豆に住まうものならば知らぬものはない。
「そなたと伊東入道との間のことも存じておる。」
「はい。」
伊東祐親と工藤祐経は同族であるが、その同族の間で所領を巡る争いがあった。
一時期両者の仲はそんなに悪いものではなかった。祐親の娘が祐経の妻となっていた時期もある。
だが、ある時から両者の仲は急激に悪化した。挙句の果て祐親は娘を祐経と離縁させ、強引に祐経の領地を奪い取ってしまった。
そのようなわけで佑経は祐親を深く恨んでいた。
頼朝と祐経は共に祐親に対して遺恨がある。
「まずは一献。」
頼朝は祐経を側に引き寄せると側にいるものに酒肴の用意を命じた。
「さて、その前に」
頼朝は二人の人物の方に目を遣った。
「そなたに引き合わせておきたい者がある。無論そなたとは初めて会うわけではないであろうが・・・」
頼朝は二人を近くへ呼び寄せた。
「こちらの女人は、伊東九郎(祐清)の後室、そしてこちらはその子じゃ・・・」
二人をみて祐経はぎくり、とした。
「さて、この二人は伊東の後家と伊東の血筋の男子じゃ。そなたとは縁浅からぬもの・・・・」
二人はじっと祐経を見つめる。
伊東の後家は静かに祐経を見据える。伊東の血筋の男子は鋭い刃のような眼差しを祐経に向ける。
その少年の眼差しに祐経はおびえる。
━━ もしや、この子はあの事を知っているのか?
「この二人は、伊東の縁者。故に伊東の領地に深く関わっている。
本来ならばこの二人が伊東を領してもおかしくは無い。」
「!!!!!」
頼朝のこの言葉に工藤祐経は青くなった。
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