時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(五百二)

2010-07-17 09:55:05 | 蒲殿春秋
源広綱の近くにいた身重の女性は、頼朝の乳母子楓。頼朝の乳母比企尼の三女で現在は平賀義信の妻である。腹の中には義信の子を宿している。
義信は楓にとって二度目の夫である。
楓の前の夫はかつて東伊豆で隆盛を誇っていた伊東祐親の子祐清。
祐清は反平家勢力が坂東で勢力をつけてくると都に上り、平家に従いやがて篠原の戦いで命を落とした。
楓はその祐清の後家という立場を持ちながら平賀義信に嫁いだ。
そして、楓の隣にいる少年が祐清と楓の養子である少年。この少年の実の父は祐清の兄河津祐泰。
この少年も伊東氏当主を引き継ぐ権利がある。

東伊豆の豪族達は複雑な思いでこの母子を見つめている。

祐親が死に、祐清が去った後伊東の地には新たなる支配者が現れた。
それはかつて祐親と領地争いを演じ、それに敗れて逼塞していた祐親の甥工藤祐経である。
彼は早急に甲斐源氏と手を結び伊東の地を瞬く間に手に入れた。工藤祐経はかつて平家一門の中の平重盛に仕えていた。甲斐源氏もかつて重盛に従っていたものの多い。そんな都合で甲斐源氏と工藤祐経は以前から近い関係にあった。
工藤祐経が力を得た結果、旧祐親勢力は圧迫され、祐清の妻だった楓は伊東にはいられなくなり鎌倉へと去った。

伊東においていち早く工藤祐経に従った者は、迷惑そうな顔をして楓母子を見つめ、祐経との関係が良好ではないものは懐かしそうな顔をして楓を見つめていた。
そして、一番複雑な顔をしているのは工藤祐経自身である。

かつて工藤祐経が甲斐源氏の力を借りて伊東に乗り込んだ時、楓母子は無力な存在だった。
楓の後ろ盾となるべき頼朝もまだそんなに強大な力を有していなかった。
だが、今は状況が違う。頼朝は東海東山の支配権を朝廷から認められ、平家を福原から追い落とした。
そして楓はその頼朝の乳母子である。頼朝からはどのような支援受けられる。
そして楓の状況も違う。今は平賀義信という強大な後ろ盾がある。

楓が祐清の後家であった事実も消しがたい。現在の夫の力を借りて前夫の後家の権利を主張することもできるし、彼女が養子にしている祐泰の子に伊東を継がせてその後見をすることも可能なのである。

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