時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(五百五十四)

2011-02-20 07:05:42 | 蒲殿春秋
範頼は範季に書状を送った。近く鎌倉に戻るという意の文を。
範季は書状を読むと黙って目をつぶった。
━━ そうか、やはり鎌倉へ・・・・
範季は我が子として育てた子が遠ざかるのを感じる。

だが、
「最後にもう一度お目にかかってから出立したい。」
との一文には、ある種の暖かいものを感じた。

範季は一度高倉の邸に来るようにという意の返書をしたためた。

━━ 六郎は鎌倉に戻ることを選んだ。だが、ただでは六郎は鎌倉には戻さぬ。
範季は東の方を直視した。そこには六郎の実の兄がいる。
先日範季は院にあることを奏上していた。そしてそれが受け入れられようとすることを知っている。

一方、鎌倉の源頼朝は異母弟範頼の鎌倉への帰還の日がいつになるのかを気にしていた。
彼が以前に朝廷に奏上したあることが受け入れられそうなことを知っている。
その披露は範頼が鎌倉にいる時期になされなければならない。
そうでなければ、今回の奏上、そしてその認可の意味は無い。

そのような頼朝の元に二通の書状が届いた。
一つは頼朝を喜ばせるもの、もう一つは喜びの中に一つの不本意を載せたものであった。

一通の書状には範頼からのもので、数日のうちに鎌倉に向かうという書状であった。
もう一通は院近臣からのものである。
それには頼朝の推挙した一族等の官位がほぼ頼朝の希望に沿って通るという内容である。
ただし、ある一文だけは頼朝の希望が叶っていない。
「武蔵、駿河国二国は頼朝の知行国とする。」

頼朝は一族を国守に推挙した武蔵、駿河、三河の三か国全てを知行国にすることを望んでいた。
だが、実際に知行国主として認められたのは三河を除く二か国である。

三河守は頼朝の希望通り異母弟源範頼が任官される。
だがその異母弟が国守となる三河国の知行国主に頼朝がなることは今回認められていない。

頼朝はこの一文をじっと見た。

しかし、頼朝は不敵に顔を上げる。
弟を知行国主として支配することは認められなかった。
だが、範頼を国守として頼朝が推挙したという事実だけは永遠に残る。
今回はこれで満足しておこう・・・・

頼朝は鋭い視線を都に向かって投げかけた。

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