時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(五百五十三)

2011-02-17 05:22:55 | 蒲殿春秋
そして範頼はある話に驚く。
なんと範頼の盟友安田義定が甲斐攻めに加わっていたということに。

━━ 安田殿が・・・・

これまで安田義定と頼朝の関係は良好なものであった。
だが、同族を討ち取るのに義定が頼朝に協力するとは思わなかった。
それも武田信義に対して積極的に攻撃をしかけていたという。

安田義定は同族とは距離をとりながらも一応の協調をとっていたものと思われた。
この期に及んで同族攻めに加わるとは思っても見なかった。
同族攻めをする、そのようなそぶりを範頼に対して何一つ見せることはなかった。

━━ 安田殿・・・・
そういえば安田義定は範頼によく近づいてはいたものの、決して腹の中を見せる男ではなかった。
いつも愛想の良い笑顔をむけてはいたが・・・
そして時として範頼の予想外の行動をとった。
木曽義仲に協力して上洛したかと思えば、こんどは義仲を討つのに協力し、鎌倉勢に下手に出る。
そして今度は甲斐侵攻に協力する。

義定は範頼にとっては大切な盟友である。
だが、範頼に心のうちを覗かせない。
そのような男だった、範頼はあらためて盟友の行動を思い返していた。

そして兄頼朝の真意をも考える。
兄は暫く自分を一の谷に止め、なおかつ甲斐の情勢が穏やかならぬときに都にいるようにと言った。

兄は自分を疑っているのではないか、と思った。
範頼の一番の盟友は勿論安田義定である。その義定は結局頼朝に味方した。
だが、範頼は他の甲斐源氏の面々とも面識はある。
兄は範頼を心からは信頼していないのかもしれない。

何かのきっかけで範頼が武田信義に味方するのではないか、そのような疑惑をもたれているのではないだろうか?

いや、もしかしたらそのような疑惑ではなく、単に面倒な立場に立たされる弟を騒動の圏外におきたかっただけなのか?

範頼は兄の真意は測りかねる。
だが、ひとつだけ分かったことがあった。
この時期都にいたおかげで範頼はこの甲斐の騒動に一切巻き込まれずに済んでいるということに・・・

兄の真意はとにかく、兄が自分を福原そして都にいさせてくれたことを感謝すべきであろう。
それに都にいたおかげで、養父と再会し、姉と共に過ごすことができた。

都はまだ長い雨の時期が続いていた。
だが範頼の都の滞在も同じ頃終わろうとしている。
兄頼朝から鎌倉に戻るようにという命が範頼のもとにもたらされたのである。

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