時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三百三十七)

2009-01-09 19:22:28 | 蒲殿春秋
治安の回復と共に貴族達が最優先課題としていたものが天皇不在問題の解決である。
この時代、政治の実権を握るのは治天の君たる院であったが、その意思は公的な手続きを踏まなければ実現されない。
院の意思は、公的な手続きーーー公卿の議定によって議され、議定の結果を天皇と摂政に奏上、奏上されたものが天皇の命令によって決定されるという形式をとっている。

つまり政治意思の形式的決定者が不在という状態に今都は陥っているのである。

一応摂政はいるものの天皇抜きで摂政が天皇の政務の代行をできるわけではない。
天皇の側にいなければ摂政はその用をなさない。
都には院や摂政そして貴族達がいるものの天皇が不在でこのままでは政治は機能不全に陥るのである。
また、天皇が行なわれるべき祭祀が滞るのも困る。たとえ院や皇子であっても天皇の神事の代行は出来ない。
当時の政は天皇が行なう神事と不可分である。
とにかく天皇不在という事態はあってはならぬ事態なのである。

その天皇は三種の神器と共に平家の手の中にある。

都の貴族達は二つの方策を模索する。
一つは平家と交渉し安徳天皇と共に都へ帰還することを勧める事。
もう一つは、安徳天皇が退位したものと見なし新しく別の皇子を天皇に立てる事。

とりあえず、一旦は平家に使者を出し安徳天皇の帰還を促す方策を採ったのだが
次の天皇を立てる計画も水面下では着々と進行していた。

平家の元に向かった使者が戻る。平家は使者にはっきりと帰京を拒絶した。

これにより都の政権の方針は新天皇を立てるということに決定する。
だが、ここで二つの問題が発生する。
一つは、安徳天皇と共に三種の神器が西国にあり現在都に無いということである。
このことは新天皇の権威を損ねることになる。
もう一つはどの皇子を天皇に立てるかということである。

最初の問題は、とりあえず践祚だけして即位の礼をとるまでに三種の神器を帰京させればすれば良いいうことで解決に向かった。
もう一つの問題の解決は簡単なことと思われた。
次の天皇を誰にするかを定める権限を持たれる唯一の方が都にいらしたからである。
その唯一の方とは治天の君である後白河法皇。

後白河法皇の意思により都に残る故高倉院の二人の皇子のうちの一人が即位すれば
次期皇位問題は解決するはずであった。
だが、一人の武将の介入によりこの問題が多少複雑な波乱を示すことになる。

介入した武将の名は木曽義仲。
義仲は今まで自分が奉じてきた北陸宮ー以仁王の遺児の即位を強く要請してきたのである。

皇室系図1


前回へ 目次へ 次回へ


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ