時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百七十三)

2008-07-01 05:47:35 | 蒲殿春秋
梶原景時から頼朝の言葉を伝えられた範頼と瑠璃は二人連れ立って大蔵御所へと向かった。
二人が新婚であることを知る御家人達の好奇と冷やかしの視線が気恥ずかしい。
参上を告げられると頼朝は直ぐに二人を呼び寄せた。
そこは普段頼朝が政務をとる場所だった。

先客がいた。
瑠璃の父の安達盛長と祖母の比企尼であった。
そして、すでに頼朝が二人を前にして座っていた。

範頼と瑠璃が座ると
「まずは、婚儀祝着である。」
と頼朝は言った。
その場にいる者全てがその言葉に平伏した。
「ありがたき幸せ。おかげさまをもちましてこの二人夫婦になることができました。」
「また此度、婚儀に際しまして鎌倉殿と御台さまには格別のご配慮を賜りありがとうございました。」
と安達盛長が礼を述べる。
頼朝は黙って礼を受け取る。

一同が顔を上げると頼朝は唐突に話を切り出した。
「では乳母、礼の件を進めるが良い。この場にてわしが承認いたす。」
「はい。では始めさせて頂きます。」
そういうと比企尼は範頼と瑠璃の方へと向き直った。
比企尼は一通の書状を取り出した。

「では、読ませていただきまする。
『譲り状 武蔵国吉見荘を我が孫
安達藤九郎盛長嫡女 蒲冠者源範頼室に譲る
 比企掃部允後室 治承七年正月』 」
読み上げるとその譲り状を頼朝に静かに差し出した。

頼朝はそれを受け取って黙って読む。
「よし、今の話確かに承った。
では、わしの下文を直ちに差し添える。」

頼朝は右筆に吉見荘が瑠璃のものであることを保証する安堵状を書かせ即座に花押を記した。

頼朝は側近に安堵状と比企尼からの譲り状を渡し、
その二通を側近がうやうやしく瑠璃に差し出した。
瑠璃はあっけにとられてままその書状を受け取った。

「内室、これで只今より吉見荘はそなたのものじゃ。」
頼朝は宣言した。



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