時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百七十六)

2008-07-07 05:48:50 | 蒲殿春秋
一方範頼も兄頼朝との縁で鎌倉にやってきた。しかも八田局とともに頼朝の乳母を務めていた
比企尼の孫娘を娶ったことで再びこうして八田局と親しく話をすることになったのである。
範頼と八田局は範頼が下野にいたときことを懐かしんだ。
下野は範頼の父がかつて国司を勤めた国である。下野にいた期間は短かったものの思い入れはある。また、かの国の人々にも思い出がある。

小山一族は頼朝にとって大切な一族である。
頼朝が挙兵をした頃は八田局の夫小山政光は大番役で都にあった。
留守を預かる八田局は夫の留守の間の正室の権限で一族を頼朝に従わせた。
このことが坂東の諸豪族に与えた影響は小さくない。
頼朝は八田局に感謝している。

現在、八田局の夫の小山政光は都にある。治承寿永の内乱が起こった治承四年(1180年)当時政光は大番役で都にあった。その頃大番役で都に上っていた坂東武士たちを平家は未だに都に引き止めている、ゆえに政光は現在都にいる。
嫡男の小山四郎朝政は下野小山にあって所領を守っている。
その弟の長沼五郎宗政と小山七郎朝光は母とともに鎌倉にある。

あっという間に時が流れて、日が西に傾き比企尼と八田局らは範頼邸を辞した。

その日の夜、今度は範頼の舅安達盛長が「いい酒が手に入った」と言って
ふらりと範頼の元へ現れた。
客人が帰宅して少しほっとしていた瑠璃は今度は自分の父をもてなす準備をしなければならなかった。
疲れきった体を引きずって侍女たちを率いて父を迎え入れた。

「さてまずは一献、と言いたいところであるが今日は大切なことを言いに伝えにきたゆえ婿殿が酔う前に話しをしなければならぬ。瑠璃、人払いを。それから、瑠璃はここに残りなさい。」
盛長は持参した酒を目の前にして意外なことを言った。
周囲から娘夫婦以外の人がいなくなったのを見計らって盛長は切り出した。
「蒲殿、明日にでも吉見荘へ下向していただきたい。」

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