時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百七十四)

2008-07-04 05:04:44 | 蒲殿春秋
「藤九郎もよいな。」
盛長は納得した顔をしてうなづいた。
「さて、蒲冠者。吉見荘はそなたの妻の所領じゃ。そなたが守ってやれ。」
頼朝は目の前に控える弟を見据えた。どこかまだ狐につままれているような
表情をしている弟に対して頼朝は言葉を続けた。
「守るといっても、どのような所領であるか判らねば実感はわかぬであろう。
近いうちに、吉見荘に赴きどのような所であるか目にするがよかろう。」

その後しばし範頼と瑠璃はとめどもないことを頼朝らと語ってから退出した。

その二人の後ろ姿を見送った後頼朝は比企尼にポツリと言った。
「乳母、無理を言って済まぬな。」
「いいえ、元々私はあの所領をあの子に継がせるつもりでいましたから。
それが、少し早まっただけのことで・・・」
「助かる。ところで、事起こった時河越殿の支援はうけられそうか?」
「それはもう、武蔵国総検校職の名において全面的に蒲殿、そして小山殿を支援すると申しておりました。」
その比企尼の答えに頼朝は満足そうにうなづく。武蔵国総検校職河越重頼は比企尼の娘婿である。
「藤九郎、足立右馬允の方は。」
「それはもうご心配なく」
と盛長も答える。足立右馬允遠元は安達藤九郎盛長の縁戚である。

「後は、六郎に八田局との縁を思い出させることじゃな。」
頼朝はつぶやいた。

帰宅した後瑠璃はしばらくボーっとしていた。
「なんで私なのかしら」
瑠璃はつぶやく。
「お祖母さまから所領をもらうのはありがたいことだけどなぜこんなに急に?」
夫の範頼も比企尼や兄頼朝の真意をはかりかねてていた。
新しくここの家の郎党となった吉見次郎は新領主となった瑠璃の幸運を喜んでいるが。

狐につままれているこの新婚夫婦の元に瑠璃の祖母比企尼からの使者がやってきた。
翌日、比企尼とともに頼朝の乳母を務めていた八田局が二人の元にやってくる
というのである。

落ち着かない新婚家庭がますます慌しくなった。
客人をもてなす準備の為に瑠璃や侍女たちは座る暇もないほど働いた。
慌しさも山場を越えた頃、比企尼が八田局らを連れて新居を訪れた。

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