時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(十三)

2006-05-03 22:17:15 | 蒲殿春秋
常陸の国府に到着すると例によって大勢の人々の出迎えを受けた。
しかし、去り行く前任国司の配下ということもあって
どこか よそよそしい ものも感じられる。
多気氏、佐竹氏などの在地の有力者に混じって湖で見かけた
八条院領志田庄を預かる志田義広の顔もあった。

都からの一行が到着した夜、一行の歓迎といままで常陸で職務を遂行していた
公文目代、田所目代などの送別の宴が催された。

土地の美酒美味が並ぶ。
やがて遊女が入ってきて宴に華やかさがましてきたころ
座は散々に乱れてきた。
大声で今様を歌いだすもの、高いびきをかいて眠る者
遊女と共に座を去るものまで現れた。
範頼も例によって大食らいをしていたが
伊豆での反省から酒には決して手を出すことは無かった。

いつしか、範頼の隣に大柄な男が座り込んでいた。
「おい」
と範頼に声をかける。
「はい」と答える。
「お前、俺のことを知っているか?」
「いいえ、初めてお目にかかりますが」
「だろうな」
男は眼をぎょろっとさせながら範頼を見た。
「俺は、左衛門尉源為義の三男で左馬頭義朝の弟、つまりお前の叔父にあたる」
「では、志田先生殿ですか?」
「そうだ。だが、気安く叔父上と呼んでもらっても困る。
源氏の血の宿命はそなたも知っているであろう。
そなたの親父と俺は決して気安く兄弟と呼び合えるような間柄ではないしな」

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