星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

fortune cookies(15)

2009-02-22 16:15:21 | fortune cookies
「ねえ、こんなこと聞いたら怒るかもしれないんだけど」
 私はやはり、こんなことを聞いたら美沙子姉さんに失札ではないかと思いながらも、逆にこんなことを聞けるのは美沙子姉さんしかいないかもと思いながら尋ねてみた。
 「恋愛が先か、結婚が先か、って私は思うんだけれども。人の紹介って謂わば結婚が先だよね。結婚が前提っていうことだから。そんなに結婚をしたかったの?」
 美沙子姉さんは少しの間無言でこちらを見ていた。この子にむずかしいことを言っても分かるかしら、とでも言っているかのようだった。
「それはきっと、すごく好きな人がいてどうしようもなく好きな人がいて、その人とめでたしめでたしって結婚できて一生その人と離れないでいられるのがいちばんの幸せだと思うわ。でもね、」「そんなのって奇跡よ。」
 
私は美沙子姉さんの顔に少し影が出来たように感じた。気のせいかもしれないけれど。美沙子姉さんは私に対しての質問に、どうしてそんなことも分からないのかなあ、と言うような表情をして見ていた。
「そういう人もいるかもしれないわ。すごく普通に、そういう経緯をたどって結婚していく人もいれば、その自分の好きな人を離さないために死ぬような思いをする人もいるかもしれない。それに、順調に好きな人と結婚できたとしてもその結婚生活がうまくいくかもわからないわ。」
「そうだね。」
「まあ、私は根性が足りなかったのだと思うわ。そういう、恋愛に対しての。だから自分にたまたま巡ってきた運命にうまい具合に乗っかっちゃったのかもしれないな。それに、あの頃の私は、自分が誰かを熱烈に好きでいるよりも、誰かに好かれ結婚するほうが幸せになるだろうって、思い込んでいた節があったかもしれない。」
 
姉さんはハンドバッグの中から何気なく四角ばったガマ口を取り出した。たばこケースだった。
「姉ちゃん、ここ、禁煙だよ。」私は正直ぎょっとした。
「ああ、そうだった。いけないいけない。」
 美沙子姉さんはたばこは吸わない人だったと思っていた私は、なんだか意外なものを見てしまったようにそのガマ口を見つめた。
「時々隠れて吸ってるんだ。でも本当に時々。」
 姉さんはガマ口の口を開けたり閉めたりしながら呟いた。
「そうだったの。隆さんは知ってんの?」
「知ってるけど家では吸わないから。本当に、時たま。ね。」
 姉さんは口ではそう言っているけれど多分そこそこ日常的に吸っているのではないかと思った。でなければ咄嗟にこういう行動はしないだろう。
「姉ちゃんストレス溜まってるの?」
 私が聞いたところで、正直に家の事情や気持なんかを話してくれるとは思わなかったが、つい聞いてしまった。
「まあね。結婚したら誰だってそこそこあると思うけれど。でも私、呑気だからさ。」
 
私はなんというか消化不良のようなものを感じた。美沙子姉さんに聞きたかったことは、もっと本音の、本当の気持ちなんだけれど、そんなものは中々私なんかには話してくれないのだろう。いや誰だってそんなは容易く人に話すようなことはしないのかもしれない。私は美沙子姉さんの顔を何気ない風をしながら観察していた。本当は、もっともっと別の、言葉にはできない気持ちがたくさん封印されているように思えた。姉さんは良い嫁として親戚の評判もすこぶる良かった。ご主人のご両親の商売を手伝い、自分の親の面倒もよく見ていた。他に男の兄弟もいるのに、美沙子姉さんの両親はあえて養子の美沙子姉さんに老後を見てもらうつもりでいるらしかった。その為に介護の資格を取るための勉強もしているということも聞いていた。
「私は美沙子姉さんみたいに、いいお嫁さんにはなれないなあ。きっと。」
 私は無意識に本音をつぶやいていた。
「私いいお嫁さんじゃないよ。そう見えるだけ。」
 美沙子姉さんは少し遠くを見つめながら小さくそう言った。

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