星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

天使が通り過ぎた(6)

2007-11-07 00:17:31 | 天使が通り過ぎた
 新幹線はアナウンスが入るとまもなくホームに静かに入ってきた。私は自分の乗る車両の番号の停車位置に立っていた。通彦から、お前といるとつまらない、疲れる、と言われた場面を思い出すと、自然と涙が滲んできた。でも、あれから一週間経っているので、さすがにもう涙は出尽くしていた。滲んできたけれども流れるほどにはならなかった。

 暫くして扉が開き、私は自分の座席を探した。窓際だった。少しほっとした。もう、あのポテト料理の店の日ほど感情が高ぶり涙がぼろぼろとひとりでに流れるということは無かったが、相変わらず情緒は不安定だった。いつ泣きたい気分が襲ってきて目に涙が溢れてくるか自分でも分からなかった。窓際なら外を見ていれば泣いたとしても他の乗客に気づかれないはずだった。

目に入る景色が、少しでも通彦との思い出につながっている時はすぐに私の脳は過去に遡り、通彦と過ごした時間を思い出し再生していた。通彦と一緒に行動するようになって10ヶ月ほど、それは1年にも満たなかった期間だが、私にとってそれはやはり良い思い出が多かった。今まで幾人かの人と付き合ったことがあったが、それでも通彦がいちばん長かった。冬に知り合って、春が来て夏が過ぎ、そして秋になってこういう事態になってしまった。通彦とは大体週に1度か2度の割合で会っていたので、破局までの期間が1年にも満たないということは実質会っている日数というのもは100日にも満たなかったことになる。たったそれだけ。たったそれだけの付き合いだったというのに、どうしてこんなに私は通彦が恋しいのだろう。

私の思い出す通彦は最後の数週間のあの冷たい通彦でなく、もっと前の、お互いがお互いを好きになり始めて興味を持ち始めた頃の、ちょっとしたことで嬉しかったりした頃の、もっと初々しい頃の印象だった。どうしてこんな素敵な、他にいくらでも彼女ができそうな人が私なんかに興味を持ったのだろう、そういう疑問を持ちつつも私は通彦と知り合えたことに感謝をしたし通彦が私を見てあの優しい眼差しで微笑んでくれるのが大好きだった。週一回か二回の、通彦と会って優しい雰囲気に包まれて一緒に手をつないで街を歩いたりしたことが、本当に幸せだと思っていた。通彦と抱き合った時は、このまま朝まで一緒にいられたらどんなにいいだろうと思った。家族と暮らしている私は外泊なんて出来なかったし、今回の通彦と行くはずの旅行だって、やっと1年近く付きあって家族にも認知され始めた矢先に計画していたことだった。

「もっと楽しく過ごしたかったんだ。最初の頃のお前は違ったと思う。何ていうか、もっと軽やかだった。段々とお前は喋らなくなった。一緒にいても黙っていることが多くなった。その内に俺も段々と疲れてきてしまって。もっと色々なことを話して欲しかったし、俺ももっと色々なことを話したかった。」
 
私は通彦の言わんとしていることがそれなりに分かると思った。私は自分でも、段々と通彦と自分が釣り合わないような気がしてきて、いつか通彦は私を捨てるんじゃないかという不安が湧いてきて、そんなことをぼんやり考えることが多くなった。どうしてそういう発想になってしまうのかは分からない。でも、街を歩いていても、明らかに綺麗な女の子と素敵な男の人とのカップルなどを見ていると、やはりこの人にはそういう人が相応しいのではないかと、しなくてもいい杞憂を抱いてしてしまうのだった。通彦とは会社もまったく違ったため、職場にどういう人が周りにいるのかも分からなかった。通彦の普段の会話などから想像すると、魅力的な女性はたくさんいそうだった。少なくとも、零細企業の事務員をしている私のように、オフィスに女がたった一人という感じではなさそうだった。女性の上司もいるとのことだった。

「これから、やり直すことは出来る?私もう少し変われるよう、努力してみる。」
 もう私の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。たまにお皿を下げに来るウェイターには、修羅場であることはばればれだった。でも涙は止めることが出来なかった。勝手にとめどなく流れてきた。化粧は落ちていただろうし、鼻水が出てきて何度も啜っていたので、ひどい顔をしていると思った。けれども、そんなことを気にする余裕もなかった。私がしたいことは、今さっき通彦が言った言葉をなんとかして撤回してもらうということだけだった。やり直そう、とそう言ってくれたら、私はこれからもっと努力をするだろう。でも何を?それはいわゆる女を磨くという類のことなのか。もっと魅力的な女になるように努力するということなのだろうか。

 「それはできない。ただの友達としてなら、これからも続けていってもいい。」
それが通彦の答えだった。顔はさきほどと違って穏やかな表情をしていたが、口調はきっぱりしていた。私は完璧に振られたのだと思った。私にプライドがなければ、もっと醜く通彦に食い下がって懇願していたのかもしれない。でも私にも僅かばかりの自尊心というものがあった。この人ともう一度やり直しても、きっと私はもっと惨めになるだけだ、そう現実的に思う自分もいた。


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2 コメント

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感服。 (だっくす史人)
2007-11-09 18:03:26
情景描写がいいですねえ。時間も場所も異なる情景を淡々と描く筆力には参りました。
余分な会話を排除しているので(4)の独白の部分がよく生きていると思います。
心理描写も抜群です。女性のこころの揺れを描き切る力を私も分けて欲しいです。
いいなあ。また来ますね。では、また。
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ありがとうございます (sa0104b)
2007-11-10 03:38:01
ご感想を頂いてありがとうございます。
自分が女なので女性の心というのは想像できる範囲かもしれませんが、男性の心理描写というのが苦手です・・・。正直何を考えているのかさっぱりわかりません・・・。
本当に稚拙な文章、お恥ずかしいばかりなんですが、もしよろしければ、これからも率直なご感想を言っていただけたら幸いです。
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