「第6波」の収束が見通せない中、検査が足りず十分な治療ができていない。相変わらず検査数を抑制ぎみの国に対し、専門家からは疑問の声が上がる。AERA 2022年3月14日号の記事を紹介する。

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新型コロナウイルスの検査が十分にできないせいで、患者さんへの治療が遅れることがあります」

 立川相互病院(東京都)の山田秀樹副院長はそう明かす。同院で感染の疑いがある人に実施したPCR検査は第6波(1、2月)で計1110件。第5波(昨年7、8月)の計757件より1.5倍も多い。しかし、1月下旬に院内PCR検査キットを千個発注しても届いたのは3月で、しかも130個だけだ。

■東京の陽性率は30%台

 抗原定性検査もするが、PCR検査は民間検査会社に頼らざるを得ない。しかし、検査会社が混み合って結果が遅れ、発症から5日以内に投与する経口治療薬が間に合わない場合もあるという。しかも自宅療養となれば、経過を直接診ることもできない。山田副院長はこう語る。

「(治療薬は)臨床試験では入院や死亡のリスクがおよそ30%改善の結果が出ています。早期の診断が重症化予防、入院率の低下に役立つはずなのに、検査という入り口に滞りがあります」

 日本の人口1千人あたりの検査数(7日間平均、2月下旬)は1.32件。米国3.03件、英国10.93件、オーストリア58.59件などと比べても先進国最低レベル。その結果、東京都の陽性率は35.2%(3月2日現在)。世界保健機関(WHO)は各国が感染拡大をコントロールできているかの基準の一つに「陽性率5%未満が2週間続いている」を挙げるが、遠く及ばない。

 政府関係者は「検査数が少ないのは、検査体制の整備を怠ってきた証拠」と話す。

「岸田文雄首相は積極的に増やす意向でしたが、厚生労働省は消極的でした。当初から検査を抑制したので、今さら方向転換できない。スクリーニング検査で多くの陽性者を出すと保健所の役割や感染者の療養を明確に法令上規定して対応しなければならなくなるが、それでは厚労省がコントロールできなくなりかねない。結局、政府は『通知』を出して抑え込んできました」

■世界はリモート検査

 感染が拡大すると、国はみなし陽性を認めた。昨年12月から受けられるようになった無症状者の無料検査も今年1月、同月第2週の平均検査数の「2倍以内」に抑えるように通知を出した。

 一橋大学大学院の佐藤主光教授(地方財政論)が解説する。

「通知には法的拘束力がなく、技術的な助言にすぎません。どのように守るのかは、自治体によって判断が分かれると思います。今回の無料検査を2倍以内に抑える通知では、期間も示されていません。国として『一応言うことは言っておいた』と現場任せに押し付けているのだと思います。地域によって感染者数の増え方も違うはずなのに、一律に2倍とするのは強引なのでは」

 首都圏のある自治体の担当者は言う。

「無料検査数を2倍以内に抑えるようにと言われたのは、ちょうど第6波の感染者数が増えていたときでした。自治体としては、業者にみだりに購入しないようにお願いするしかできません。『検査を受けられない』と住民からの電話もありました」

 所管の内閣官房に尋ねると、「議会があって担当者がつかまらないので後日に」と答えた。

 医療ガバナンス研究所の上昌広理事長はこう指摘する。

厚労省の医系技官たちは、通知を出すだけで責任を負いません。今の日本に欠けるものは患者目線です。世界はリモートでの検査が拡大しています。患者が自宅で早期に検査を受けやすくする体制づくりが必要です」(編集部・井上有紀子)※AERA