「75歳」が老化の節目!? 超高齢化社会で変わる病気の常識 06月05日 AERA dot.
団塊の世代の約800万人が75歳以上となる「2025年問題」が目前だ。今の高齢者は10年前と比べて、身体機能も知的能力も10歳若返っている。しかし喜んでばかりもいられない。機能がガクッと落ちる年齢があったのだ。好評発売中の『差がつく70歳からの病気 サインと最新治療』より紹介する。
みなさんは知っているだろうか。2017年に日本老年学会・日本老年医学会は、75歳以上を「高齢者」、65歳以上74歳以下を「准高齢者」とする新たな定義を提言した。これまで、高齢者は65歳以上とされてきた。理由は、1956年にWHO(世界保健機関)が発表した「65歳以上の人口が全人口の7%を超えると高齢化社会とする」という見解がきっかけだ。当時の日本人の平均寿命は、男性が64歳、女性が68歳。つまり、平均寿命を超えた人はみな高齢者だったのだ。
それから半世紀以上が経ち、日本人の平均寿命は男性が80.98歳、女性が87.14歳(平成28年簡易生命表)と大きく延びた。それだけでなく、肉体的にも元気な高齢者が増えている。その実態を日本老年学会・日本老年医学会は、多くの科学的なデータをもとに検証。現在の高齢者は10年前に比べ、身体の働きや知的能力が5〜10歳は若返っていると判断。65歳以上74歳以下の多くは、活発な社会活動が可能であるとして「准高齢者」に区分した。健康な人には働いてもらって、本当の「高齢者」になる前の準備段階として備えてほしいというメッセージといえる。
ただし、これは社会保障制度として何歳で高齢者を区切るかとは別の問題で、実際の高齢者の健康状態に関する客観的な事実だ。東京都健康長寿医療センター名誉院長で骨粗鬆症財団理事長の折茂肇医師は、こう話す。
「みんなが長生きするようになった今、これまで常識とされていたことが高齢者では通用しなくなっています。これからは健康や病気について、考え方を変えていく必要があるのです」
加齢に伴い身体機能は落ちていき、老化により発症する病気も増えていくことは、おおむね自明であろう。ただしそこに、大きな境目が存在するとしたらどうだろうか。
「加齢とともに身体機能は直線的に落ちていくと思われがちですが、実際は段階的にガクッと落ちていきます。そこに節目(境目)があるのです。高齢者は個人差が大きく一律には言えませんが、落ち方が直線的になると思われるのは、大多数の調査で統計的にならした結果、そう見えるだけなのです」(折茂医師)
その節目が「75歳」だ。骨粗鬆症を例に挙げると、75歳を境に骨折する部位が変わってくる。65〜74歳で多いのは、手首(橈骨[とうこつ])や肩からひじまでの上腕骨、背骨(椎体)の骨折。それが75歳以上になると、太ももの付け根(大腿骨[だいたいこつ])の骨折が急増する。これは、骨粗鬆症によって骨が弱くなり、加齢とともに骨折しやすくなることに加えて、サルコペニアによる筋力の衰えが起こるからだ。サルコペニアとは、ギリシャ語の「サルコ=筋肉」と「ペニア=減少」を組み合わせた言葉で、筋肉量が減少してしまう状態をいう。筋肉の減少速度は75歳前後から急速になり、身体機能の低下も重なって転倒が起こりやすくなることが、大腿骨骨折の大きな原因といえる。
がんの年齢階級別罹患者数は年齢とともに増え、75〜79歳でピークとなる。加齢・老化に伴って発症しやすくなる病気には、がんのほか糖尿病や高血圧などの生活習慣病や、動脈硬化性血管障害、腰部脊柱管狭窄症、股関節やひざの変形性関節症など、枚挙にいとまがない。長生きすることで臓器が衰え、それが要因となる病気も多い。そのうえ高齢者は、それらの病気が併存する可能性も増えてくる。
日本老年医学会で高齢者の生活習慣病管理ガイドライン作成ワーキンググループ委員長を務める東京都健康長寿医療センター内科総括部長の荒木厚医師はこう指摘する。
「75歳以上の人には未満の人とは違った考え方で治療することが必要です。75歳未満の人は病気で体調が悪くなっても、その原因を一つ治療すれば回復して社会復帰できる人が多いですが、75歳以上の人の場合、複数の病気や心身の機能低下があるため、治療した後でもさらに生活機能が悪化し、要介護や死亡のリスクが高まります。また、治療による副作用リスクが増すことや、からだに負担が大きいと治療ができないケースもあります」
75歳以上の人と一口に言っても、健康の度合いに大きなばらつきがあり、元気に仕事や運動をしている人もいれば、要介護状態の人もいる。
健康と要介護の中間で、加齢に伴い心身の活力が低下し、ストレスも重なって生活機能が障害されて要介護や死亡に陥りやすい状態を「フレイル」という。具体的には歩く速度や身体活動が低下したような人がフレイルだ。健康の度合いにばらつきがある75歳以上の人をフレイルという観点でみることにより、治療成績、薬物の有害作用、予後などを予測することができるという。(本誌・杉村健)
※週刊朝日 2018年6月8日号より抜粋
団塊の世代の約800万人が75歳以上となる「2025年問題」が目前だ。今の高齢者は10年前と比べて、身体機能も知的能力も10歳若返っている。しかし喜んでばかりもいられない。機能がガクッと落ちる年齢があったのだ。好評発売中の『差がつく70歳からの病気 サインと最新治療』より紹介する。
みなさんは知っているだろうか。2017年に日本老年学会・日本老年医学会は、75歳以上を「高齢者」、65歳以上74歳以下を「准高齢者」とする新たな定義を提言した。これまで、高齢者は65歳以上とされてきた。理由は、1956年にWHO(世界保健機関)が発表した「65歳以上の人口が全人口の7%を超えると高齢化社会とする」という見解がきっかけだ。当時の日本人の平均寿命は、男性が64歳、女性が68歳。つまり、平均寿命を超えた人はみな高齢者だったのだ。
それから半世紀以上が経ち、日本人の平均寿命は男性が80.98歳、女性が87.14歳(平成28年簡易生命表)と大きく延びた。それだけでなく、肉体的にも元気な高齢者が増えている。その実態を日本老年学会・日本老年医学会は、多くの科学的なデータをもとに検証。現在の高齢者は10年前に比べ、身体の働きや知的能力が5〜10歳は若返っていると判断。65歳以上74歳以下の多くは、活発な社会活動が可能であるとして「准高齢者」に区分した。健康な人には働いてもらって、本当の「高齢者」になる前の準備段階として備えてほしいというメッセージといえる。
ただし、これは社会保障制度として何歳で高齢者を区切るかとは別の問題で、実際の高齢者の健康状態に関する客観的な事実だ。東京都健康長寿医療センター名誉院長で骨粗鬆症財団理事長の折茂肇医師は、こう話す。
「みんなが長生きするようになった今、これまで常識とされていたことが高齢者では通用しなくなっています。これからは健康や病気について、考え方を変えていく必要があるのです」
加齢に伴い身体機能は落ちていき、老化により発症する病気も増えていくことは、おおむね自明であろう。ただしそこに、大きな境目が存在するとしたらどうだろうか。
「加齢とともに身体機能は直線的に落ちていくと思われがちですが、実際は段階的にガクッと落ちていきます。そこに節目(境目)があるのです。高齢者は個人差が大きく一律には言えませんが、落ち方が直線的になると思われるのは、大多数の調査で統計的にならした結果、そう見えるだけなのです」(折茂医師)
その節目が「75歳」だ。骨粗鬆症を例に挙げると、75歳を境に骨折する部位が変わってくる。65〜74歳で多いのは、手首(橈骨[とうこつ])や肩からひじまでの上腕骨、背骨(椎体)の骨折。それが75歳以上になると、太ももの付け根(大腿骨[だいたいこつ])の骨折が急増する。これは、骨粗鬆症によって骨が弱くなり、加齢とともに骨折しやすくなることに加えて、サルコペニアによる筋力の衰えが起こるからだ。サルコペニアとは、ギリシャ語の「サルコ=筋肉」と「ペニア=減少」を組み合わせた言葉で、筋肉量が減少してしまう状態をいう。筋肉の減少速度は75歳前後から急速になり、身体機能の低下も重なって転倒が起こりやすくなることが、大腿骨骨折の大きな原因といえる。
がんの年齢階級別罹患者数は年齢とともに増え、75〜79歳でピークとなる。加齢・老化に伴って発症しやすくなる病気には、がんのほか糖尿病や高血圧などの生活習慣病や、動脈硬化性血管障害、腰部脊柱管狭窄症、股関節やひざの変形性関節症など、枚挙にいとまがない。長生きすることで臓器が衰え、それが要因となる病気も多い。そのうえ高齢者は、それらの病気が併存する可能性も増えてくる。
日本老年医学会で高齢者の生活習慣病管理ガイドライン作成ワーキンググループ委員長を務める東京都健康長寿医療センター内科総括部長の荒木厚医師はこう指摘する。
「75歳以上の人には未満の人とは違った考え方で治療することが必要です。75歳未満の人は病気で体調が悪くなっても、その原因を一つ治療すれば回復して社会復帰できる人が多いですが、75歳以上の人の場合、複数の病気や心身の機能低下があるため、治療した後でもさらに生活機能が悪化し、要介護や死亡のリスクが高まります。また、治療による副作用リスクが増すことや、からだに負担が大きいと治療ができないケースもあります」
75歳以上の人と一口に言っても、健康の度合いに大きなばらつきがあり、元気に仕事や運動をしている人もいれば、要介護状態の人もいる。
健康と要介護の中間で、加齢に伴い心身の活力が低下し、ストレスも重なって生活機能が障害されて要介護や死亡に陥りやすい状態を「フレイル」という。具体的には歩く速度や身体活動が低下したような人がフレイルだ。健康の度合いにばらつきがある75歳以上の人をフレイルという観点でみることにより、治療成績、薬物の有害作用、予後などを予測することができるという。(本誌・杉村健)
※週刊朝日 2018年6月8日号より抜粋