Tenkuu Cafe - a view from above

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-空から見るからこそ見えてくるものがある-

太平洋沿岸を飛ぶ (35) - 室戸岬

2010-02-22 | 四国


かれが室戸の尖端にせまり、ついに最御埼の岩盤に立ったときは、もはや天空にいる思いがしたであろう。この海底から隆起している鉄さび色の大岩盤は風にさらされてまろやかな背をもち、わずかに矮小な樹木のむれが岩を装飾しているにしてもそれらは逆毛立つように地を這っているにすぎず、まわりは天と水であり、それに配するに地の骨といったふうに、天地の三要素が純粋に露呈している抽象的世界のようでもある。かれの思念から夾雑物をはらって宇宙の法則性のみをとりだそうとする作業にはこのほつの場所ほど格好なところはないであろう。
この巌頭に立てば風は岩肌をえぐるようにして吹き、それからのがれるためには後方の亜熱帯性の樹林の中に入りこみ、樹々にすがり、岩陰にみをかくさねばならない。やがて空海は風雨から身をまもるための洞窟を発見するにいたった。洞窟は断崖に左右二つうがたれており、奥は深い。むかって左は洞の天井から地下水の滲み出ることがややしげく、むかって右は洞内が乾いている。空海がこの洞窟をみつけたとき、
「何者かが、自分を手厚くもてなしている」という実感があったのではないか。
(司馬遼太郎著『空海の風景』より)



室戸岬の先端にほど近いところに「御厨人窟(みくろど)」はある。
荒波打ち寄せる海岸から、国道55号をはさんですぐのところにある洞窟である。
洞窟は二つあり、空海が修行をしたという右の「神明窟」と住居とした左の「御厨人窟」。

青年時代の空海が虚空蔵菩薩求聞持法(こくうぞうぼさつぐもんじほう)の修行を行った場所だ。

「心に観ずるとき、明星口に入り、虚空蔵の光明照らして来りて、菩薩の威を顕わし、仏法の無二を現ず」(『御遺告』)

空海がこの空間で体現した現象とは、天空に輝いていた明星(金星)が口の中に飛び込んできたことだった。

「虚空蔵菩薩求聞持法」とは、平たく言えば記憶力をアップさせるための修行。虚空蔵菩薩の化身である朝日や夕日、明星の光を迎えるために、ひたすら虚空蔵菩薩の真言を唱え続ける。途中で止めれば命を落とすといわれるほどの荒行だ。空海は見事に明けの明星を呑み込むという神秘体験をして成満し、8万4千の教典をすべて理解したのと同じだけの智慧を授けられたという。