Tenkuu Cafe - a view from above

ようこそ『天空の喫茶室』へ。

-空から見るからこそ見えてくるものがある-

春、列島を横断する (20) - 陸中海岸

2011-06-11 | 東北


あれから数カ月、私の耳には、明けても暮れても、北の浜の人々の声援する喚き声が、耳に聞こえて離れません。私は今も、この家に座っております。実家に帰って幸福な再出発をしろという母や兄、それとも夫の母や奈々を支え、慣れぬ手で人の名前を刺繍しながら一生を、埋もれて暮らすのが女の仕合せか、私にはどちらを選ぶ決心もつきかねているのです。私はあの北国の対しょ的な二人の勝負に、自分の方向を心ひそかにかけてもみるのでした。人間の尽力の限界は幾らひでさんのように頑張っても、自然に逆らわず順応する恵まれた条件に生きるたかさんには、及ばぬものがあるのではないだろうか。神は私に、その回答を与えてくれるような気がしたのです。それを思うと私は、居てもたってもいられなかったのです。
(水木洋子作『北限の海女』より)



現在、久慈市には大尻・小袖・久喜の各地区に海女がいるが、第一次産業としての海女漁は衰退し、そのほとんどが観光用となってしまった。
小袖漁港にある「小袖海女センター」付近の海で海女による実演が行われている。
2009(平成21)年には、NHKのニュースなどで取り上げられ、「かわいすぎる海女」効果により、北限の海女は久慈市の観光の目玉の1つとなっていた。


しかし3月11日に発生した東日本大震災に伴う津波により、前年8月に新築した「小袖海女センター」は全壊、センターに続く海岸沿いの道路約5キロは、がれきにふさがれて不通になったまま。
また小袖地区では素潜り以外の漁業も大打撃を受けた。近海で漁をするサッパ船(小型船)も約60隻すべて流され、漁の道具を入れた浜小屋も流されたという。





シリーズ「春、列島を横断する」と題して、主に東北地方太平洋沿岸の地方を空から眺めて来た。

環境省は、東日本大震災で大きな被害を受けた陸中海岸国立公園(岩手県、宮城県)と南三陸金華山国定公園などを、「三陸復興国立公園」(仮称)として再編する方針を決めた。
復興公園の範囲は、南北約350キロ。
北から種差海岸階上岳(はしかみだけ)、陸中海岸(国立)、気仙沼(宮城県立)、南三陸金華山(国定)、硯上山(けんじょうさん)万石浦(まんごくうら)(宮城県立)、松島(宮城県立)―の6自然公園が含まれる。

観光振興で地元住民の雇用確保につなげるほか、津波被害の爪痕を後世に伝える自然環境記録(モニタリング)に取り組み、災害時に避難路となる長距離自然歩道を整備することなどで「復興」を強く意識した国立公園として位置づける。




さて、本日6月11日、東日本大震災発生から3か月を迎える。

今震災による死者は1万5千人、行方不明者8千人を越えた。いまだ9万人以上の被災者が避難生活を強いられ、がれきの撤去も遅々として進まない。復興への動きは鈍い。








春、列島を横断する (19) - 久慈市・小袖海岸

2011-06-04 | 東北



おらァ、若エとンにゃ、まンだ負けねア、まンだおらの息にかなう奴ァ一人もねァ。上村のたかァ家サぶっ建てて自慢面すてるが、ありゃ観光客来だ時の見得はって、今から愛敬ふりまいて、会長面すてるだけでァおらほァ、高波来て何度も流れツから、身体一つがもとでだ、あどァ何にもいらね。欲ァねァ。おらアたかと違って、一人で稼いで一人で子をなして、一人で何もかもやっできた。最初の男ア嫁入って三月で蟹工船のって遭難した。おら、この下村に生まれて、高波で両親なくしで、おばンちゃんに貰われた孤児だ。家ァねえがら、人に使われで、ワカメ干し手伝ったり砂もみ落としやっで稼ぐうち、或る日舟ァついてな茶碗や丼コ売りに男ァ来た。
・・・・・・・・・
おら、腹のガキ抱えて浜サ帰エって来た。生む日まで海女ァして稼いだ。その頃ァ上村のたかァ今の爺さんに命綱見張らせて、上がれば火たいて貰って、舵子やらして大名稼ぎだ。おら水から上がれば一人で火たいて、腹痛ぐなっても、一人で産湯沸かして一人で生んだ。
エナ切るのに自分の爪で切って、一人で産湯つかわせたもンだ。

(水木洋子作『北限の海女』より)







昭和34年、久慈市小袖の海女を主人公にしたラジオドラマ『北限の海女』がNHKラジオで放送された。

私(語り手)は、都会に暮らす30歳の女性。 夫に死別し、これからの自分の生きる方向を模索すべく、一人で、日本の海女の北限といわれる、岩手県久慈市小袖を訪ねる。そこで境遇が対照的な二人の老練の海女(北村ひで、岩田たか)に出逢う。
そして、北村ひでの激しくも、個性的な生きざまを目の当たりにし、これからの自分の生きる方向に確信をもつという物語である。当時の小袖地区の様子や海女の生活、方言などが興味深く描かれている。この作品はその年の芸術祭賞を受賞する。


このドラマの脚本を書いた水木洋子は、『ひめゆりの塔』、『裸の大将』、『浮雲』など、戦後、日本映画の黄金時代に数々の名作を残した。