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太平洋沿岸を飛ぶ (27) - 古座川

2010-02-10 | 近畿


神野優氏がコカワを話題にしたのは、本流の古座川が上流の多目的ダムのために濁って(私の清濁基準ではとても濁っているとは思えないが)いるために、古座川の以前の清らかさを知ってもらうことができない、せめてコカワの流れをご覧になればかつての古座川の水というものが想像できます、ということなのである。
「それほど古座川の水は美しかったのですか」
「ええ、もう」
神野優氏は、かつては古座川にしか棲んでいない小さなエビがいて、獲って食べると何とも言いがたいあま味があったものだが、ダムが出来てからは絶滅しました、といった。
「その小さなエビがいなくなったのは、水の清濁のせいか、ダムのために川の水温が変わったせいか、その点はよくわかりませんが、ともかく、以前の古座川ではなくなったのです」
神野優氏は、真砂でもそのようなことを言われたが、繰り返し、「ダムを作ったのは川筋の洪水ふせぎのためでわれわれ川沿いの者が陳情してやっとできたのです」と言い、しかしいまは後悔しています、といった。少々の洪水を我慢しても古座川の水の水温と透明度を守るほうが、これは感傷でいっているのではなく、よかったかもしれないと思ったりしています、ということだった。
(司馬遼太郎著 『街道をゆく・熊野古座街道』より)




古座川は、紀伊半島南部に鎮座する霊峰、大塔山(標高1121m)を源流に持ち、緩やかに太平洋へ注ぎ込む全長約60kmの清流である。
とりわけ最大の支川である小川(こかわ)は、水の透明感では日本一の清流と言えるもので、中流の「滝の拝」は川床が全て岩床で、清流のたたずまいを一層引き立てている。

1956(昭和31)年、古座川本流中流部に治水と発電を主な目的とした七川(しちかわ)ダムが完成、供用された。ところが、発電のための水位調節可能幅が狭小な上に、日本一の多雨地帯に近く、台風や集中豪雨に見舞われるため、ダム施設そのものを洪水から守るため、放流を実施してきた。この放流の結果、ダムの下流、特に河口域から串本湾に広がる海の生態系に甚大な影響を及ぼすことになった。流域住民からは、ダム設置やダム放流とそれに伴う水質量の変容が、近年見られる魚貝類や青海苔の漁獲量の減少と関連しているのではないかと噂されて来た。