「土俵にはカネが埋まっている」とは、元横綱・若乃花(故・二子山親方)が遺した言葉だ。その言葉通り、角界は出世を果たすたび、一般人では考えられない凄まじい金額を稼ぎ出せる仕組みになっている。
力士の収入を大別すると、月給、力士報奨金(給金)、懸賞金という3本柱に分けられる。ここでは「力士報奨金」について解説しよう。
月給と違って力士によって大きく変わってくるのが「力士報奨金」である。これはいわば力士の能力給といえるもので、好成績を上げるごとに額が増えていく仕組みになっている。
力士はすべて、序ノ口でデビューした際に「持ち給金」として1人当たり3円が与えられる。以降、本場所での勝ち越し1勝につき0.5円が加算され、他にも金星1個につき10円、優勝1回につき30円、全勝優勝は50円を加算。そしてこの合計を4000倍した金額が、本場所ごとに引退するまで支給される。
「番付は上位陣の多くが勝ち越すなどして三役に昇進できなかったり、上位が詰まっていて上がれないようなこともあり得る。内規に照らせば条件を満たしているものの、横綱や大関への昇進が見送られることも多い。番付にはこうした不平等があるため、給料の能力指数として万全ではないという見方があり、その不備を補うために考案されたのが力士報奨金だといわれています」(角界関係者)
現役で持ち給金が最も多いのは横綱・白鵬で1691円。
これを4000倍した676.4万円×年6回=4058.4万円が、基本給にプラスして支給される(支給金額は推定)。
これまで持ち給金の最高額は大鵬の1489.5円だったが、白鵬はこれを軽々塗り替えてしまった(ちなみに千代の富士は1447.5円、貴乃花は1060円)。
白鵬が持ち給金を増やせた理由は全勝優勝の多さにある。全勝優勝すれば50円に加え、15勝の勝ち越しなので7.5円加算され、合計で57.5円(一場所あたり23万円)。これが14勝1敗の優勝なら優勝の30円と勝ち越しの6.5円で36.5円(同14万6000円)と全勝優勝の約半分となる。白鵬は35回の優勝のうち、歴代1位となる11回が全勝優勝。最多額をたたき出しているのも頷ける。
力士報奨金は地位による最低支給額が決まっている。出世が早くて昇進時に最低支給額に満たない者は昇進した段階で最低額までアップされる。横綱に昇進した時に150円、大関昇進で100円、幕内は新入幕すれば60円、十両では40円に引き上げられる。
陥落してしまったら昇進時にプラスされた差額分だけ減額されることになるが、それ以外には成績が悪かったからといってマイナス査定されることはない。持ち給金は負け越そうが、休場しようが減額されないのだ。そのため、例えば8勝7敗を2場所続ける力士と、下位で12勝3敗と大勝ちして次の場所に上位で3勝12敗と大きく負け越した力士では、前者は1円、後者は4.5円アップという差がつく。
つまり番付が大きく上がって大きく下がる“エレベーター力士”のほうが、上位で毎場所のようにギリギリ勝ち越して踏ん張る力士より報奨金は高くなる。
そのため長く土俵を務めれば持ち給金は増えていく。昨年7月場所後に40歳8か月(史上最年長)で引退した旭天鵬は、幕内在位99場所(歴代2位)、幕内出場1470回(歴代1位)などの記録を持っており、持ち給金は181.0円。最高位が関脇だったが、大関・琴奨菊(141.5円)を上回る数字だった。
「減額がないのはベテラン力士に有利。大関を陥落したり、幕内力士が十両に落ちても長く現役を続けるのは、積み上げた報奨金が保証されているためです。逆に幕下まで転落すると報奨金が支給されなくなるので、あっさり引退することが多い」(相撲ジャーナリスト)
そしてもう一つ、額に大きな影響を与えるのが「金星」である。史上最高の16個の金星を誇った安芸乃島の報奨金は、それだけで160円(64万円)に上った。
「歴代2位の12個の金星をあげた高見山は、横綱・輪島から7個を獲得して輪島キラーと呼ばれました。そのため審判部はなかなか両者を対戦させなかったと噂されたし、横綱在位8場所で12個もの金星を配給した琴桜は、協会から引退勧告を出されたともいわれます」(同前)