キプロスの国会は19日夜(日本時間20日未明)、ユーロ圏による100億ユーロ(約1兆2千億円)の金融支援の条件として銀行預金に課税する法案を反対多数で否決した。預金者に負担を強いる異例の措置に各党が反発を示した。支援策が暗礁に乗り上げれば、沈静化していた債務危機が再燃する懸念も拭い去れない。
キプロスは課税で見込んだ資金の代替財源を模索し、ユーロ圏との再交渉を求めるとみられる。ユーロ圏財務相会合のデイセルブルム常任議長は否決後の19日、条件が満たされれば「支援実施の用意はある」と表明しつつ、改めて預金課税の実行を要請。欧州中央銀行(ECB)はキプロスへの資金供給を継続する方針を表明した。
英政府は同日、キプロスに駐留する英軍兵士を支援するため、100万ユーロの現金を積んだ軍用機を現地に派遣したと発表。現金自動預払機(ATM)やカードが完全に使用できなかった場合に備えた措置という。
キプロス支援をめぐっては、16日に同国とユーロ圏が支援実施の代わりに、1回に限り預金に課税することで合意。だが、預金引き出しが相次ぐなど国内は混乱。金融市場も動揺したため、ユーロ圏は少額預金者の保護を求めていた。
キプロス政府は国会に対し、全銀行預金に最大9.9%を課税する当初案を修正して、2万ユーロ以下の預金には課税免除する法案を提出。19日の採決では、国会議員56人のうち36人が反対したほか19人が棄権し、賛成者はいなかった。アナスタシアディス大統領は法案否決について、「完全に尊重する」と表明。20日には各党と協議し、課税で見込んだ58億ユーロを確保する代替策を検討した。
現地からの報道では、代替案として国債発行による資金調達や銀行のリストラのほか、すでに支援を受けるなど関係の深いロシアに追加協力を要請することも選択肢に上っている。アナスタシアディス大統領は法案否決後の19日、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行った。
キプロスの国内総生産(GDP)はユーロ圏全体の0.2%でギリシャの10分の1以下。支援がなければ、債務不履行(デフォルト)に陥る恐れが高まるが、ユーロ圏への影響は限定的ともされる。
ただ、ECBのアスムセン理事は独メディアに対して「キプロスと同国内の銀行が破綻すれば、ユーロ圏全体への間接的な影響がある」と言及。ギリシャ問題で封じ込めたユーロ離脱の懸念がキプロスに対して強まれば、再びユーロの信頼が損われ、欧州からの資金逃避を招く恐れに懸念を示した。