金曜日の笑顔

1998年10月30日 | 会社・仕事関係

 5時前に、一緒に生産管理をしているSと会社に戻って、第1工場の裏口か
ら入ろうとすると、賑やかな声がする。見ると、金型をフォークリフトがゆっ
くり運んでいた。それの後ろにしがみつくように、製造の男が3人乗っていた。
まるでお祭りの山車のようだった。3人の中のKが、
「このフォークじゃだめだァ。これじゃジョブチェンジできませんよ」
 と、私とSに大声でいう。
 今日、第1工場のフォークリフトは点検のためにリース会社が持って行き、
目の前を走っているのは代車だった。その代車は2トンで、いつも使っている
フォークリフトは2、5トンなのだ。金型が重くて、フォークリフトが浮いて
しまうので、製造の奴らが乗っているのだ。
 私のたてた計画では、3号機は1勤までHS30のサイドウィンドウを成形
し、2勤でジョブチェンジして(金型を載せかえて、ガラスを成形できるよう
調整するのに5、6時間かかる)、月曜日の1勤からSX0のフロントベンチ
を成形することにしたはずだ。
 なんとかR側の金型は、成形機まで運んで載せたが、L側は少し重いので、
そのフォークリフトでは無理だとKがいう。
 私は考え込んでしまった。検査が終わってフォークリフトが戻ってくるのは
月曜日だが、ジョブチェンジは今日中にしてもらわなくては、私のたてた計画
が狂う。
 そのときSが、
「第3工場のフォーク持ってきましょうか」
 という。
「この通勤時間帯の混雑してるときどうやって」
 Kがいう。
「頭下げて車に停まってもらうんですよ」
 Sがニコニコしていう。ちょっと太っていて、黙っていると近寄りがたい雰
囲気の彼だが、笑顔は天下一品だった。第1工場と第3工場は500メートル
ほど離れている。
 先週、T硝子から台車(製品のガラスを入れて運ぶもの)のビニールシート
が破れたから交換してくれといわれていて、そのシートがやっと今日入ったの
で、Sと交換しに行ってきたのだ。これで1週間が終わった、と思っていたの
に、こんなことが会社で待っているとは…。
「裏道、使いましょう」
 Kの一言で決まった。Nが運転し、私たちはフォークリフトの前後を歩いた。
夕方の住宅の間の細い道路を、フォークリフトはモーターを唸らせて走った。
地べたを這いつくばうように暗闇を走るフォークリフトは、怪物のようだった。
 第1工場に戻り、無事L側の金型を成形機に載せた。
 帰りは面倒くさいから、表の通りを行こうということになった。無事金型を
載せてジョブチェンジできることになった安堵感が、みんなの心を大きくして
いた。
 製品の、仕上げや検査をしているおばさんたちが、1週間の仕事を終えた開
放感を顔いっぱいにくっつけて「おつかれさまァ」と帰っていく。
 Sが道路に出て、両手を広げ丁寧に頭を下げて、通行する車を停めた。フォ
ークリフトが唸りながら、表通りを走っていく。
 私に、やっと金曜日の開放感がやってきた。

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