「ブラックボックス」読了

2022年11月13日 | 小説 エッセイ

第166回芥川賞受賞作「ブラックボックス」(砂川文次 著)を読んだ。
久しぶりに芥川賞受賞作を最後まで読みました。
ここ何年か、読み始めても最後まで読む気がなくなり、読むことをやめた受賞作が多かった。

サクマは、高卒で自衛隊に入隊するが先輩隊員と殴り合って辞めてしまう。
その後、不動産の営業職に就いたが社長の息子に悪態をついて1年で辞めた。
それからは寮がある工場や現場で契約社員やアルバイトとして働き、
転職を繰り返してきた結果、現在は福利厚生の無い非正規労働として、
自転車メッセンジャーをしている。
メッセンジャーとして働くサクマは、自転車で信号をギリギリのタイミングで
渡ろうとしたところ、ベンツに轢かれそうになり落車した。
サクマ自身は無事だったものの、故障した自転車を修理するために営業所へと戻る。

自転車便の営業所でも所長の滝本によけいなことを言い、
その結果、シフトを減らされ、メッセンジャーからフードデリバリーに仕事をかえる。
サクマは、東京の三鷹にある一軒家で円佳(まどか)と同棲していた。
彼女とはコンビニのアルバイトで知り合ったのだが、
そこでもサクマは、客といざこざを起こして辞めていた。
円佳と共同生活する中で、避妊しなかったため妊娠してしまう。
円佳との生活をちゃんとしなきゃいけないと思っているが、
なかなか定職に就けずに、今をやり過ごしてしまうサクマだった。
サクマの家に、納税を督促するために税務署から二人の調査官がやってくる。
サクマは、玄関口で説明を聞いていたが、調査官の一人が少し笑ったように見えた。
その前に円佳から、安定した仕事に就かないことをなじられて苛立っていたことも手伝って、
サクマの中に抑えられない暴力衝動が湧き上がる。
サクマは、手近にいた調査官にいきなり頭突きをくらわす。
笑った方の調査官が逃げ出し、サクマがそれを追いかけると、
偶然やってきた二人組の警察官と出くわしてしまう。
サクマは制止されるが、腕を脱臼しながら警察官二人を負傷させてしまう。
その後、逮捕されたサクマは刑務所に送られるが、そこでも問題を起こしてしまう。
「自分にはどうしようもない」とサクマは繰り返し述懐している。
制御不能な暴力衝動がいつ飛び出してくるか分からないサクマ自身の身体こそが、
「ブラックボックス」である。

刑務所に入ってからもエピソードはあるが、それは書きません。
しかし、刑務所に入った直接的な理由は税務署員への暴力ですが、
ただの自転車便の青年にまで署員が来るのは考えにくいと思う。
そんなことをこの小説に感じましたが、面白く読みました。

私も高校を出てから20回以上転職してきた。
いろいろありました。
暴力的な気持ちになったことは、ないこともない。
今の妻と同棲から始まり、結婚式も挙げてない。
読みながら自分と「ブラックボックス」のサクマとの違いを、いろいろ考えさせられました。

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