ドライブ・マイ・カー

2022年02月15日 | 小説 エッセイ

映画「ドライブ・マイ・カー」の原作を読んだ。
短編集「女のいない男たち」(村上春樹 著 文藝春秋社 刊)の中に、
「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」「シェエラザード」
「木野」「女のいない男たち」の6編が所収されている。

家福(かふく)は俳優で、週に6日、舞台に出演している。
地下鉄もタクシーも好きじゃない彼は、車を運転して移動する。
車の中でかけている台本を録音したカセットテープにあわせて、台詞を読み上げて覚えた。
ところが先日接触事故を起こし、運転免許停止となった。
警察の指定した眼科医の検査を受けたら、緑内障の兆候が見つかった。
それで家福は専属の運転手を捜していた。
それを知った修理工場の経営者の大場が若い女性ドライバーを推薦してくれた。
名前は渡利みさきといった。
20代半ばの、ぶっきらぼうで、無口で、むやみに煙草を吸う女性だった。
2日後家福は、黄色のサーブ900コンバーティブルの助手席に乗り、
女に近くを運転してもらった。
みさきは翌日から家福の専属運転手となった。
大場の保証したとおり、彼女は優秀なドライバーだった。
みさきは口数が少なく、質問されない限り、口を開こうとはしなかった。
しかし、家福はそのことをとくに気にしなかった。
彼も日常的に会話をすることがあまり得意ではなかった。
気心の知れた相手と中身のある会話をするのは嫌いではないが、
そうでなければむしろ黙っていられた方がありがたかった。
彼は助手席に身を沈め、通り過ぎていく街の風景をぼんやり眺めていた。
いつも運転席でハンドルを握っていた彼にとって、
そういう視点から眺める街の風景は新鮮に感じられた。

家福は助手席に座っているとき、亡くなった妻のことをよく考えた。
みさきが運転手を務めるようになって以来、
なぜか頻繁に妻のことを思い出すようになった。
妻はやはり女優で、彼より2つ年下で美しい顔立ちの女だった。
家福は彼女を愛していた。
29歳で会ったときから強く心を惹かれたし、妻が死んだ49歳まで心は変わらなかった。
しかし妻の方は時折、彼以外の男と寝ていた。
その相手は全部で4人だった。
どうして彼女が他の男たちと寝なくてはならないのか、家福には理解できなかった。
それは彼と妻は夫婦として、良好な関係を常に保っていたからだ。
周りの人々も彼らを仲の良い理想的なカップルとして見ていた。
それなのになぜ他の男たちと寝たりしたのか、
その理由を妻が生きているうちに思い切って聞いておけばよかったと彼は考えた。

ある日助手席の家福が、車を運転しているみさきに話した。
10年ほど前に、同じ俳優で妻と寝ていた6・7歳年下の男と、飲んで話すようになったことを。

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この先を書いてしまっては、これから読む人に対して申し訳ないです。
先をどんどん読みたくなる作品でした。
この短編小説を読んで、映画にしようと思った濱口竜介監督の気持ちが嬉しい。
「ドライブ・マイ・カー」の他に、同作が収められている短編集「女のいない男たち」
の中の「シェエラザード」「木野」も映画のモチーフにしてあるそうです。
映画のあらすじをネットで読みましたが、原作とはかなり違うようです。
小説はよかったですが、私は映画も観たくなりました。


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