卒業式

1999年03月07日 | 暮らし

 土曜日は、Kの高校の卒業式だった。
 私は、月初めの忙しさも一段落したので、休日出勤をせずに行くことにした。
 高校は、家から歩いて15分ほどのところにある。昨日はよく晴れて、暖か
かった。家にいるときから学校に着くまで、女房は「これでKの学校の行事に
行くことは最後だね」と何回も何回もいっていた。息子の成長の早さに、ちょ
っぴり不満を感じているようだ。
 私にもその想いがないわけじゃない。「あっというまだったな」と女房にい
ったし、私なりのものたりなさも感じている。まして、去年山梨に1年間単身
赴任をしていたので、息子の高校2年の暮らしを知らない。なんか女房より損
した気持ちだ。
 会場の体育館に入ると、ブラスバンドの音がする。私はいっきに卒業式とい
う世界に連れ込まれてしまう。私も中学、高校のとき、いつも入学式、卒業式
にはトロンボーンを吹いていた。“音”というものは、なんの理屈もなしに現
在の歳や暮らしの状態に関係なく、その世界に心を運んでくれますね。
 卒業式の開会を告げる教師が、「保護者のかたにひとことおことわりをして
おきます。式次第に、国歌斉唱とありますが、それぞれの思想信条によって歌
う歌わないはこ自由にお願いします」といった。そんなこともいわなければな
らない“国歌”ってなんなんだ、と思った。
 ブラスバンドが演奏を開始し、卒業生が入場してきた。10組のKは、最後
のころ入ってきた。女房は「Kが来た。Kが来た」と興奮していた。
 卒業証書授与は、一人ひとり名前を呼び、クラス代表が校長から受け取ると
いうスタイルだった。中学のときはめいめいが受け取っていた。10組もあっ
ては、そうもいかないんだろう。
 はじめは普通に担任が名前を呼び、生徒が「はい」といって起立していたが、
3組になったとき、私にとって新鮮なことがおこった。名前を呼ばれた生徒が、
「はい」といわなくなったのだ。名前を呼ばれると男子は、「おー」とか「ふ
ぁい」とかいう。女の子は「結婚します」「恋人募集中」「結婚したい~」な
んて絶叫する。場内に笑いが広がった。私も思わず顔がほころんだ。
 私の高校のころでは考えられないことだ。
 卒業生が、学校に赤外線ヒーターを送った。そのことを卒業生代表が校長に
報告し、最後に「3年*組、身長165センチ、体重48キロ、ただいま恋人
募集中、OXA子」なんていう。校長は、笑いを抑えて「ありがとう。大切に
使います」とこたえていた。
 式が終わり、卒業生が退場するとき、在校生のところで立ち止まり、用意し
てきた紙吹雪とか胸に刺していたカーネーションを放り投げた。
 ブラスバンドは「マイウェイ」を演奏している。
 あるクラスは、カーネーションの茎と花を左右の耳に刺し、まるでカーネー
ションが頭に刺さっているみたいにして退場していった。
 会場大爆笑の渦だった。これがKが3年間通った高校だ。
 私は卒業式の進行しているとき、Kの小さいときから今日までのことを考え
ていた。いろいろあった。その中でも、中学生のとき身体の具合が悪くなって
1年間学校を休んだときのことを思い出していた。あのとき、Kは高校も行け
ないんじゃないか、とかなり暗い気持ちになっていた。どうにかここまでたど
り着いたな、という喜びが心の底に少しづつ広がった。
 夕方、女房と買い物から帰ると、Kが洗面所でなにかしていた。女房が見に
行ってきて私に「髪の毛を脱色しているよ」という。私は、一瞬凍りついた。
「K、パパ固まってるよ」
 と、女房がKに嬉しそうに叫ぶ。
「これから赤く染めるんだって。いいよね、高校卒業したんだから」
 あれだけ、高校生のときには反対していた女房が、ニコニコしていう。
 さて、あいつは大学に行ったらどんなになっちゃうんだろう。

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