習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

中脇初枝『伝言』

2023-11-22 09:20:00 | その他
戦火の満州、新京で暮らす女の子とその家族のお話。終戦間際から戦後の時間をリアルに描く。7章からなるこの長編は奇数章はひろみの話で偶数章は彼女の関わった大事な3人のエピソード。ひろみの満州での日々が丁寧過ぎるくらいに丁寧に描かれる。だからこれはお話ではなく、ドキュメンタリーだ。幾分まどろっこしいくらいに丁寧に当時の彼女の体験が描かれる。10代からスタートして最後はなんと90歳まで。満州で見たこと、し . . . 本文を読む
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『逃げた女』

2023-11-20 15:45:04 | 映画
これはホン・サンスの2019年作品。ベルリンでの監督賞を始め、評判になりさまざまな映画賞を受けた作品である。だが、これはいつもにも増して小さな映画だ。彼の映画はいつも上映時間が短いのだが、今回はいつも以上に短くてなんと1時間16分。しかも3話からなる短編連作スタイルの長編作品。実にシンプルでスリム。もちろんムダな説明はなし。当然必要なはずの説明もない。だから見終えたときに煙に巻かれた気分になれる。 . . . 本文を読む
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劇団きづがわ『貧乏物語』

2023-11-20 13:48:31 | 演劇
劇団きづがわ創立60周年記念公演である。これは関西の老舗劇団であるきづかわが放つ渾身の『今』を描く芝居。時代は昭和9年,1934年。満州事変から始まった泥沼戦争の真っ盛り。日本は地獄に向けてまっしぐらに落ちていく時代。河上肇は自分の意志を貫く。これは獄中にいる彼を見守る家族のドラマだ。 女たちは河上の留守宅を守る。彼の妻と娘。若い女中、そこにやって来た以前働いていた女中や友人、隣の女給。キャスト . . . 本文を読む
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瀧和麻子『東家の四兄弟』

2023-11-20 08:00:00 | その他
『団子三兄弟』ならぬ四兄弟のお話。3人の話が交互に展開して,やがて満を持して長男が登場する。実はもう彼は出ないのではないか、と思うくらいに忘れられている彼がさりげなく登場してすぐに九州の自宅に帰ってしまう。だからこれは四兄弟の話だけど、実質三兄弟の話で進行していく。兄帰るのエピソードから話が動き出すのかと思ったら、まるでそうじゃないのは少し驚き。ある種のパターンにはならないのだ。だからといって新鮮 . . . 本文を読む
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『理想郷』

2023-11-19 08:12:00 | 映画
なんとシンプルなタイトル。だが、なんとも複雑なドラマ。単純じゃないし、理想郷というタイトルもただの皮肉ではない。スペインの田舎の村に移住したフランス人夫婦に善意と悪意が交錯する。素晴らしいところにやって来た、と思った。美しい夫婦、優しい人たち。村人たちとのふれあい。理想をここで実現する、はずだった。だが、それがほんの些細な行き違いからとんでもない悪夢になる。描かれるまさかの展開には容赦がなく、こん . . . 本文を読む
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片岡自動車工業『お局ちゃん御用心!!!』

2023-11-18 12:51:00 | 演劇
片岡百萬両の芝居を見るのはほんとに久しぶりだ。片岡自動車工業になってからは今回が初めてになる。だから、とてもうれしい。以前は毎回見ていたけど、こんなにも間が開くなんて思いもしなかった。 今回見ることにしたのはチラシにある「おひねり公演」という驚きの企画を見たからだ。公演初日は無料で見せるというのである。(おひねり公演なので、公演後に各自が自由に料金を払うというシステム)凄い戦略だ。太っ腹で大胆。 . . . 本文を読む
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『花腐し』

2023-11-18 08:50:00 | 映画
荒井晴彦の新作。ピンク映画業界で生きる監督、栩谷(綾野剛)とかつて脚本家を目指していた伊関(柄本佑)。ふたりはたまたま出会い、一晩を一緒に過ごすことになる。居座る伊関をアパートから追い出すために、栩谷は彼の住む部屋にいく。そこで何故かふたりは自分たちの過去の恋愛について話すことになる。それだけのお話。これは忘れられない女について語る恋愛映画だった。懐かしいピンク映画界のこと、その衰退を描くことが目 . . . 本文を読む
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小手鞠るい『未来地図』

2023-11-17 19:01:00 | その他
こんなにも優しくて、ささやかな感動を与えてくれるそんな(小さな)小説と出会えて良かった。小手鞠さんの新刊だから、それだけで借りてきたのだが、秘密の隠れ場所を見つけた気分だ。こんな小説が好き。ひっそりとして、決して傑作だとか大騒ぎする作品ではないけど、自分だけは大事にしたいと思う作品。誰にも勧めない(もったいなくて)。そんな隠れ里のような小説はたくさんあるけど、これもその一冊。  彼女が . . . 本文を読む
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一穂ミチ『青を抱く』

2023-11-17 10:27:57 | その他
2015年に刊行されたBL小説を角川から再び文庫化。今大人気の一穂ミチの小説だから、売れる。ということで再発売になったのだろう。初めてBL小説を読んだ。始まって120ページくらいでキスシーンがあり、お互いを意識し合うようになり、恋愛関係に陥って、という普通の恋愛小説と同じだけど、男同士ということがBLの条件。ジャンル小説には偏見はないけど、ある種の定型を踏まなくては成り立たないのはポルノ映画とよく . . . 本文を読む
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中村文則『列』

2023-11-17 07:27:00 | その他
この手の不条理小説は最近少ない気がするし、少なくとも僕は最近あまり読んではいない。象徴的な話が延々と続くのに付き合うのはしんどい。集中させてくれるだけの何かがあればいいけど、なかなか難しい。短編ならいいけど、長編は特に。昔、安部公房はこんなのばかり書いていて、なのにそれが実にスリリングだった。『密会』や『壁』なんかとても好きだった。でもあれらに惹かれたのは高校生だったからかもしれない。もう40年以 . . . 本文を読む
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小手鞠るい『ゆみちゃん』『ななちゃんのたからもの』

2023-11-16 12:46:00 | その他
今、『未来地図』を読んでいる途中だけど、図書館に行ったら、小手鞠るいの児童書(絵本)の新刊が2冊も並んでいたので、さっそく読んでしまった。どちらも素晴らしい出来で今熱を出して自宅でひとり寝ているリンちゃんに読んであげることにした。アレクサを通しての読み聞かせをすることに。  熱を出してそのまま亡くなった妹のことを描く『ゆみちゃん』は少しつらいかも、と思うけど、今二年生のリンならわかってくれるかな . . . 本文を読む
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『神々の深き欲望』

2023-11-15 16:20:15 | 映画
人間の根源的な姿がここにはある。圧倒される映画だ。それを見つめながら,怖いなと思う。一体なんなんだろうか、これは、とも思いながら,最後まで目が離せない。ここに描かれるのは1960年代後半の日本。だけど、これはまるで遥か昔の神話世界にも見える。文明から孤立して生きる。しかし確かに文明はこの島にも入っている。砂糖工場があり、島人たちはそこから恩恵を受けている。さらには島に空港を作り、一気に観光地として . . . 本文を読む
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児玉雨子『##NAME##』

2023-11-15 09:26:00 | その他
芸能事務所に所属するふたりの少女の物語。2006年7月、小5と小6からスタートして、15年5月、大学生になっている。さらに時間は戻り、2008年、8月。中学生になったふたり。ふたつの時代を行き来して、ジュニア・アイドルとして有名になれず、活躍出来なかった彼女たちのあの頃と今を描く。さらには児童ポルノとしてあの頃を告発され、被害者であるにも関わらず、周りから白い目で見られる。自分たちの過去が否定され . . . 本文を読む
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近藤史恵『間の悪いスフレ』

2023-11-14 21:15:00 | その他
フランス料理店ビストロ・パ・マル。そこのスタッフとお客さんが繰り広げる料理ミステリー・シリーズ第4作。  読みやすい短編連作。今回はコロナ禍を舞台にお話が展開する。飲食業界はみんな体験した生き残りを賭けた日々を背景にして、それでもいつも通りの美味しい料理を提供してお客さんを笑顔にしたいと思うスタッフの奮闘ぶりが描かれる。   いろんな客がやって来て、そこにさまざまな問題が . . . 本文を読む
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高瀬隼子『うるさいこの音の全部』

2023-11-14 13:23:00 | その他
なんなんだろう、この小説は。あまりに不思議な世界で、読みながらこれは何?とずっと思って、何度も立ち止まってしまった。なのに止まらないから、一気に最後まで読んでいた。気になって仕方がないからだ。これはどこに辿り着くのか。話が面白くて止まらないわけではない。話なんて別にないし。ただ、彼女の身辺雑記。新人賞を獲り、作家デビューして単行本が出版された。周りは彼女を小説家として認める。ほんの少し注目されて、 . . . 本文を読む
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