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映画・演劇のレビュー

『神々の深き欲望』

2023-11-15 16:20:15 | 映画
人間の根源的な姿がここにはある。圧倒される映画だ。それを見つめながら,怖いなと思う。一体なんなんだろうか、これは、とも思いながら,最後まで目が離せない。ここに描かれるのは1960年代後半の日本。だけど、これはまるで遥か昔の神話世界にも見える。文明から孤立して生きる。しかし確かに文明はこの島にも入っている。砂糖工場があり、島人たちはそこから恩恵を受けている。さらには島に空港を作り、一気に観光地として躍進しようとしている。なのに未だ因習に縛られて、まさかの暮らし、しきたりに縛られている。この混沌が映画全体を支配する。これは今村昌平が、神話的伝統を受けついで生活する沖縄の一孤島(クラゲ島)を舞台にして、因襲(過去)や近代化(未来)と闘う今を生きる島民たちの生活を描いた3時間の超大作。

よくぞまぁ、こんな映画を作ったものだ。これは狂気の世界である。この狂った映画はどこまでも暴走する。これに匹敵する映画はコッポラの『地獄の黙示録』くらいしかないだろう。三國連太郎は冷静になってこの狂気を受け止めていく。狂っていく北村和夫とは対照的に。しかし、ラストでは三國は殺されて,北村はしれっと文明世界に戻っていく。それはカーツ(マーロン・ブランド)とウィラード(マーティン・シーン)の関係に似ている。沖縄とベトナム。その対比を2作品に見る。

単純に原始が文明に侵されることが描かれるという図式ではない。彼らは微妙に狡い。文明の恩恵を受けながら、心地よい因習に縛られているふりをする。守られていることを享受しているのだ。三國は最愛の妹を奪われて、それに耐えて因習を守るために自ら犠牲になっている。だが、20年に及ぶ隔離と巨石との戦いに打ち勝ってこの島を妹とふたりで出ていく。未来に向けて旅立つラストは感動的だ。しかし、そこで映画は終わらない。

その後、まさかの展開。さらにはその5年後と怒濤のエンディングが待ち受ける。1868年、ベストワンに輝いた今村昌平渾身の狂気の世界は狂った今の時代にも燦然と輝いている。こんな映画を作った今平天皇はあの60年代末期の時代において冷静に未来を見つめていた。今見てもこれは凄い映画だった。

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