
今年もウイングカップがやってきた。なんと欠かさず連続15年である。ウイングフィールドのスタッフと若い演劇人たちの努力の賜物。ということで、これはその第1弾。劇団白色の芝居を見るのは2度目。大川朝也、渾身の一作。
舞台美術は客席から舞台を横切る墨絵巻。圧巻である。ひとりの若者が雨やみを待っていた、という冒頭の設定は芥川龍之介の『羅生門』を思わせる。そこにナレーションがかぶさる。ここまで全編ナレーションを多用する芝居は見たことがない。主人公の内面の声だけでなく、他のキャストの声もある。秋雨降る夜の古寺が舞台になる。雨やみを待つ男のもとに僧侶(女性)がやって来て、ゆっくりしてください、と言うところから始まる。これは黒澤明の『羅生門』じゃないか。
そこに妖怪がやって来る。妖怪! これはコメディではなくシリアスなのに。だから妖怪もまたシリアスな存在として登場する。さらには場違いなメイド服の女性やタイムトリップしてきた未来人まで来た。彼らが愛について語る。作、演出の大川朝也はテーマは恋愛だと言う。だけど恋は描けないから「愛」にフォーカスする、と言う。
さらにはこの話に唐突にホームレスの男と彼らを保護する団体職員の話が交錯する。ここまで来たら明らかにこれは現代版『羅生門』だと思う。
ラストは夢オチだと思っていたが、敢えてそうはしない。気がつくと寺は廃墟で、というパターンである。それだと秋成や溝口健二の『雨月物語』だね。(まるで日本映画名作選だ。)主人公の男だけでなく、それぞれがこの場所から去っていく。彼らはここに偶然集い、一夜、語り合った。
さらにはそこに妖怪が夢から目醒めて朝の公園から立ち上がっていく、というラストを用意する。さらには(さらには、の大安売り!)ホームレスの男の死が描かれる。彼はホームレス狩りの若者たちにこの公園で殺されていた。彼に恋心を抱かれていたNPOの女性職員は花を手向ける。
タイトル通り、なんだか壮大なスケールのお話である。大川さんは、今思うことのすべてをここに注ぎ込んで100分のバカな人間たちの(愛おしい)恋と愛を描いた。とても誠実で真面目な作品である。そして力作でもある。