習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

中村文則『列』

2023-11-17 07:27:00 | その他

この手の不条理小説は最近少ない気がするし、少なくとも僕は最近あまり読んではいない。象徴的な話が延々と続くのに付き合うのはしんどい。集中させてくれるだけの何かがあればいいけど、なかなか難しい。短編ならいいけど、長編は特に。

昔、安部公房はこんなのばかり書いていて、なのにそれが実にスリリングだった。『密会』や『壁』なんかとても好きだった。でもあれらに惹かれたのは高校生だったからかもしれない。もう40年以上前の話だ。

 
『列』は3部からなる。1部はタイトル通り列に並んでいる人たちの話。この列は何なのかわからない。なかなか進まない、イライラするけど、待ち続けるのは何かを期待しているからか。誰かが列を離れる。ひとり分前に進む。離れた人は諦めたのか、それとももっと条件のいい列を見つけたか。隣の列が進み始める。焦る。今からでもあちらに移るべきなのか、と。
 
こんな話が延々と続く。2部は一応明確なストーリーがある。ある動物学者の話だ。彼が狂気に至るまでの話。猿の生態を観察して研究している。人もチンパンジーも変わらない。ずっと見守る日々。非常勤講師から准教授昇進を目指すが叶わない。

3部は再び列の話。並んでいるのはあの動物学者である。彼の周囲にいた人たちもそこにはいる。ふたつの話はちゃんと重なる。わかりやすい。だけど、この列が何なのかはわからない。わかるはずもない。生きていることの意味がわからないように、この列の意味なんて分かりようもない。

カフカの『変身』や中島敦の『山月記』を誰もが読んだように10代の頃、不条理と向き合いその意味を考えたことは意味のある行為だった。今、大人になって忘れていたそんな当たり前の不条理と再び向き合うことにも少し意味はあるか。なんて,考えることになる。これはそんな小説。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 小手鞠るい『ゆみちゃん』『... | トップ | 一穂ミチ『青を抱く』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。