習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

一穂ミチ『青を抱く』

2023-11-17 10:27:57 | その他

2015年に刊行されたBL小説を角川から再び文庫化。今大人気の一穂ミチの小説だから、売れる。ということで再発売になったのだろう。初めてBL小説を読んだ。始まって120ページくらいでキスシーンがあり、お互いを意識し合うようになり、恋愛関係に陥って、という普通の恋愛小説と同じだけど、男同士ということがBLの条件。ジャンル小説には偏見はないけど、ある種の定型を踏まなくては成り立たないのはポルノ映画とよく似ている。ポルノに一般映画に負けない傑作があるようにBL小説にもあるだろう。さて、この一穂ミチの作品はどうだったか。

描かれる作品世界はあまりに狭くて、作品世界が広がっていかないのは不満だ。設定もあまりに作り物めいているから、少し鼻白む。眠りから覚めない弟の介護をする兄が、弟そっくりの男と出会い,心惹かれる。男の優しさに絆され、好きになっていく。彼は同性愛者ではなかったが男女間とは違う恋愛に戸惑いながら誘われる。あまりのパターンだ。

終盤にあるセックスシーンがかなり長くこれもBL小説のお約束なんだろうか。ここは引いてしまった。さらには,まさか本当にオチにもそれはやり過ぎではないかと思ってしまう。すべて狭い世界で安易に決着をつけてしまうのにはガッカリする。

本編の後、後日譚として4つの短編が付いている。ファンサービスだろうが、これもやり過ぎ。眠っていた弟が2年の眠りから回復して日常生活に復帰してくる話や、ふたりの母親たちの恋愛について、さらには恋人同士になったふたりのその後までがコンプリートして描かれる。悪くはないと思うし、ファンにはたまらないだろうけど、作品としてはやはり、やり過ぎ。

『スモールワールズ』でブレイクする以前の習作作品だと思って読むとこれはこれで興味深いが。ちなみに、僕は最初に読んだ『きょうの日はさようなら』(2016年)が彼女の小説では一番好きな作品。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 中村文則『列』 | トップ | 小手鞠るい『未来地図』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。