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映画・演劇のレビュー

蒼沼洋人『波跡が白く輝いている』

2023-12-05 05:42:00 | その他

久しぶりに号泣した。まさかこんなに泣くなんて自分でも驚いている。夜明け前に読んでいたから、感情が素直になっていたのかも知れない。誰もいないベッドで、物音もしない朝の4時くらいから読み始めていた。冒頭の2章は昨夜、寝る前に読んでいた。その時は「よく出来た児童書だな、」と思ったくらいだった。

 だが、これはそんなレベルでは収まらない大傑作だった。震災とコロナの時代を描く記念碑的な作品である。1歳の時,震災で母親と祖母を亡くした少女が11歳の小6になつた年。最悪だった2021年。コロナのせいでさまざまなものをまた失う。だけど人生の中の大切な時代、そんな時間を七海は精一杯に生きる。春から夏。そして再び春を迎えるまでの物語。
 
記憶にもない母のことを今の彼女と同じ小6の母の同級生だった人たちから教わる。母がどんな女の子だったのか。今の自分と同じ時代をいかに生きたのか。
 
七海は目の前の現実と向き合う。家族、友人、そして自分自身。もう子どもじゃないけど,まだ半人前で大人じゃない。だから失敗もするけど、知らなかった母を目指して,懸命に生きる。

だが嫌なことが次から次へと起きる。大好きな叔母さん(母親代りに育ててくれた汐里ちゃん)が結婚して東京に行くこと。うれしいはずなのに,素直に喜べない自分に腹が立つ。おじいちゃんとふたりぼっちになるから、頑張らないといけないと思うけど、上手くいかない。友だちのお父さんの事故、おじいちゃんのガン。抱え切れないくらいの大変さ。
 
そんな日々の中から12歳だった母が卒業前に取り組んでいた海光祭(震災から途絶えていた)を復活させるために立ち上がる。小さな女の子が震災,コロナに立ち向かうことになる。まさかの展開である。子どもに何が出来るのか、と大人は言うけど、あんたたちがしないし、出来ないと諦めたことを彼女は成し遂げる。
 
12歳を舐めるなよ、と思う。これはそんな気分にさせてくれる大傑作。かつて12歳だった僕たちにも、またあの頃のように今と向き合うことの大事さを教えてくれる。この小説を埋もれさせずに出版した編集者(これは講談社児童文学新人賞大賞ではなく、佳作入選作品である)とこれを書き上げた蒼沼洋人に拍手。これは今年一年を代表する小説である。

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