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映画・演劇のレビュー

吉野万里子『空色バウムクーヘン』

2015-10-21 21:09:55 | その他
とうとうこういうのが出てきたか、と感心する。ありとあらゆるスポーツもの小説を読んできたけど(うそ、です。でも、かなりの小説を読んだ)これはないわ、と思う。思わず偏見から読むのをやめようか、と思ったくらいだ。でも、読んでよかった。作者の意図通りだ。女子がウエイトリフティングなんて、そんな差別と偏見をきっと誰もが抱く。だが、どんなスポーツでも同じだ。一生懸命している女の子たちはキラキラしている。(というか、男の子でも、ですが)

重量挙げである。そんなの高校生女子がしますか、と周囲はいう。うら若き女性が、レスリングとか、ウエイトリフティングとか、ありえない。それは主人公も同じ。彼女も最初は冗談だと思っていた。しかし、冗談から駒。(瓢箪から、かぁ)仕方なく入部したけど、すぐに辞めるはずだった。なのに、だんだんこのスポーツに取り込まれていく。いや、別にウエイトリフティングでなくてはならなかったのではない。なんでも、よかった。大切なのは、大事な高校時代、『何か』に夢中になることなのだ。それがどんなスポーツでもいい。(もちろん、スポーツでなくても、いい。だいたい彼女は、最初はお笑い芸人[それも、微妙だが]を目指していたのだから。)

スポ根ものではない。だいたいウエイトリフティングは神奈川では女子は3校しかないから、県大会に出るだけで、ほぼ関東大会の出場できる。そんなマイナースポーツなのだが、でも、こんなに危険なスポーツもないだろう。そんなこと、見ただけで想像がつく。

でこぼこコンビであるふたりの女の子が、初心者から(そりゃそうだ!)この競技を始め、その魅力に取りつかれていく姿がほほえましい。オリンピックを目指すが、挫折したところからがこの小説の肝だ。わかっていたことだが、大事なのはオリンピックではない。(高校初心者からでもオリンピックが目指せれるのがマイナースポーツの凄さだが、)

夢が破れたとき、彼女たちは気付く。自分たちは高校生で、高校での3年間を思いっきり楽しむことが何よりも大事なのだ、と。高校でのクラブはそのためにある。みんなと一緒に汗を流し、笑ったり泣いたりして、大切な時間を共有することなのだ。そんな当たり前のことをちゃんと教えてくれる。


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