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映画・演劇のレビュー

『新しき世界』

2014-02-23 22:36:07 | 映画
 久々に「韓国映画を見た!」という気分にさせられる傑作映画の登場である。先日、三池崇史の『土竜の唄』を見たとき、なんだかなぁ、と思った部分をこの映画はちゃんと補ってくれる。もちろん、あの映画はコメディーだから、あれはあれでよかったのかもしれないけど「潜入捜査もの」というジャンルに於いて、必要な条件を満たせていない。緊張感である。あのときは『インファナル・アフェア』を引きあいに出したけど、それは的外れではないはずだ。

 この映画を見たとき、『インファナル・アフェア』+『ゴッドファーザー』だな、と思った。それはチラシの裏にも書かれてあったから、誰もがそう思うことなのだろう。でも、それはこれが安易な企画であることを意味しない。あの2本に匹敵するということなのだ。これにはそれくらいの迫力があるということだ。

 主人公のイ・ジョンジェがすばらしい。最後なんて、『ゴッドファーザー』のマーロン・ブランドや『ゴッドファーザーPART2』のアル・パチーノと比較しても遜色ない。この終わり方は凄いと思った。(その後、6年前のエピソードが挿入されるが、あれはあれでいいけど、その直前でエンドタイトルを出すべきだった)

 冒頭の残酷シーンには目を覆うが、ただのド派手なだけのヤクザものアクション映画ではないことはすぐに明確になる。ファン・ジョンミンの兄貴とのやり取りがいい。ふたりの関係性が垣間見える。さらには自分の置かれている状況も明確になる。話にどんどん引き込まれる。

 チェ・ミンシクの上司の非情さ。幾重にも張り巡らされた味方であるはずの警察の罠。8年の潜入で、組織に一員として確固たる地位を築いている。しかし、いつばれるか、気が気ではない。自分が警察官であることを忘れるはずもないが、やくざとしての矜持も守らなくてはならない。どこまでが本当でどこからが演技なのか、自分でもわからなくなる。しかも、組織の中でも敵味方が入り乱れる。何を信じて、何を疑うか、それすら明確ではない。

 この映画はそういうある種のパターンを見事に踏襲しながらも、その先へとどんどん踏み出していく。韓国最大の暴力団組織の会長が死に、その跡目争いが勃発する。警察はこれを機に組織の壊滅を図る、なんていうもう手垢が付きまくりのお話だ。だが、そんなこと、ものともしない。堂々たるタッチで、見事にドラマを展開していく。やがては思いもしない場所へと連れて行かれる。そのストーリーの妙については、映画を見てもらうしかない。ハリウッドがリメイクを決めたのもよくわかる。実によくできた話の展開なのだ。衝撃のラストも自分の目で確かめてほしい。

 ただ今は、この台本のうまさと、それを実に静かなタッチで見せた演出の力に拍手を惜しまない。監督脚本はパク・フンジョン。必ずタイトル通りに、「新しい世界」へといざなわれる。

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