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映画・演劇のレビュー

『エレナの惑い』

2016-03-24 22:09:10 | 映画

 

『父帰る』『ヴェラの祈り』のアンドレイ・ズビャキンツェア監督第3作。今回初めて上映時間が2時間を切った。1時間49分という手頃な長さ。ロシア映画は重くて長い、という従来のパターンから抜け出した意義は大きい。、まぁそういう半分冗談のようなことだけではなく、これは彼のここまでの2作品から大きく前進した作品になった。

 

ファーストシーンを見た時、また、また、これはきつくてツライ映画が始まる、と思ったのだが、そうではなかった。庭から室内が見える場所にカメラが据えられたまま、数分、動かない。夜明け前の薄暮から朝になり陽射しが部屋に当たるまで。2カット目で、主人公のエレナがベッドから起きだす。

 

お話はわかりやすい。老齢に達した夫婦。エレナの夫は裕福で、自分の生き方に自信を持っている。今は仕事もリタイアして悠々自適な日々を過ごしている。ジムに通い、プールで泳ぎ、ちゃんと体を鍛えている。今でも、妻とセックスもする。(60代になってもちゃんと現役だ)ふたりは再婚で、彼には娘がひとり。エレナにも息子とその家族がいる。お話は生活に困るエレナの息子夫婦に彼が援助を拒むというところから生じる。自分の子供ではないし、もう大人なのだから自分たちの生活は自分たちでなんとかすべきだ、という彼の考えは正しい。だが、エレナにとっては、そんなふうに簡単には割り切れない。ふざけたダメ息子である。こんなやつとは、誰でもかかわりたくない、と思う。だが、家族には罪はない。エレナは生まれたばかりの孫が可愛い。この子のためにも、と思う。

 

こんなにも静かで、淡々とした映画にも関わらず、終盤いささか大胆な(ドラマチックな)お話の展開を見せる。(前作の『ヴェラの祈り』もそうだったけど)だが、そんな不意打ちのような展開も含めて、この映画は実にバランスよく、どうしようもない家族の絆のドラマを提示する。ラストシーンはファーストシーンと呼応する。端正で収まりのいい作品として完結する。やがて、愚かなこの家族は壊れていく。エレナの罪は彼女の心の中に仕舞い込まれたまま、封印される。そうすることで彼女は断罪される。

 


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