
ピーター・ウィアー最新作とAmazonの案内に書かれてあり、配信終了まで8日、ってあったから、これは何よりまず今見なくては、と思い見始めた。90年代一世を風靡したオーストラリアの巨匠、ピーター・ウィアー監督が映画界から姿を消してからかなりの歳月が過ぎたのではないか。『トゥルーマンショー』を最後にして新作が途絶えたはず。それだけにこの彼の新作映画を配信で見つけてうれしくなった。
『危険な年』で初めて知った。若き日のメル・ギブソン主演作である。『マッドマックス』公開直後くらいに日本でも公開された。その後、『ピクニックatハンギングロック』経由で(日本公開は遅れたから)アメリカに進出して『刑事ジョンブック 目撃者』『モスキート・コースト』を撮りそして『今を生きる』という輝かしいキャリアを築く。80年代は彼の黄金時代だった。
気になったから調べてみたら、この映画は2011年の作品だった。日本でも劇場公開されているみたいだが、僕は知らなかった。21世紀に入ってからは『マスター・アンド・コマンダー』1本の後、7年の空白期を経て2010年にこれを作ったらしい。2012年に日本では上映された。それを最後に新作はなく、現在80歳。
だから僕は20年振りに彼の映画を見ることになったということだ。感慨深い。作品は彼らしい真面目で誠実な映画で悪くはないと思う。ただひたすら歩き続けただけの映画である。奇想天外なドラマはない。
自由に生きたい、という当たり前の願いを叶えるために6500キロの道のりを歩き続けた6人。1940年、ソ連のシベリア収容所から脱獄して、極寒の地からひたすら歩き続けて旅する。途中からはひとりの女の子も合流してモンゴル、中国に。今度はカラカラの砂漠を経て、チベットに。映画はここまでで終わるが実際には最終的にヒマラヤ山脈を経てインドまで辿り着いたらしい。
ソ連とモンゴル国境でひとりと別れ、さらなる旅の途上ではまず少女が、そして次に年配の男、ふたりが死ぬ。生き残るのは4人。
壮大な旅、というよりもこれは過酷すぎる戦いの記録だ。命懸けの旅の果て。自由を手にする。戦争を背景にして生きることの意味を問う。彼はあの傑作『今を生きる』の監督なのだ、と改めてわかる。これはそんな映画だった。名優コリン・ファレル、エド・ハリスが脇を固める。お話は実話をベースにしているみたいだが、あり得ない。不可能なことだ。だけどそんなことより、そんな夢を実現させたことを信じたい。リアリティなんて夢見る力の前では意味を感じない。
エンディングでこの後の歴史がモノクロ映像で描かれる。戦争が終わっても平和な世界はやって来なかった。そして今も世界では戦争が続く。80年経ってもソ連(今はロシアだけど)は変わらないし、アメリカも。世界も。悲しいけどそれが現実だ。だからこそ過酷な旅を生き抜き未来を手にしたこの映画を受け入れたい。