goo blog サービス終了のお知らせ 

習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『光る鯨』

2025-05-22 22:04:00 | 映画
これは2023年作品で密かに劇場公開された映画。もしかしたらテアトル梅田で1週間くらい上映していたかも。チラシを見たような気がする。いや、違うかな。あまりに膨大な映画があっという間に公開されて消えていくから、ぼんやりしてたらわからない。(上映してたのはナナゲイかも)玉石混交のたくさんの映画が作られて埋もれていくような時代。誰でも映画が作れる。

今はそんな時代になってしまった。それはうれしいような、さみしいような。ただ映画の作り手にとっては苦労して作った映画は大事な作品だからもっと大切に扱ってもらいたいはず。だけど今は映画は簡単に消費されている。

苦労して作ったはずの映画も劇場からは一瞬で消えてしまうし、たぶん配信からも。
これもそんな一作。Amazonで後10日で配信終了というサインが出ていたから見た。

とてもいい自主映画だった。小さな映画だけど、無名の役者たちが支える2時間7分の大作である。低予算だけど、丁寧に作られてある。

事故で死んでしまった両親に逢いに行く姉妹のお話だ。あの日、ふたりはまだ13歳と8歳だった。夏休み、家族で2泊3日の海水浴に行く朝、8歳の糸は水着が気に入らないから行きたくないとダダを捏ねていた。団地の玄関では彼女のふたりの友人(ボーイフレンド?)が見送りに来てくれていた。ふたりが手を振って4人家族の乗る車は走り出す。

事故死した両親と生き残った姉妹。あれから15年。ふたりは大人になった。あの日のふたりの男の子たちも。

最初は幼なじみの男の子がいなくなって探しに行くところから始まる。彼はあの日見送りに来てくれたふたりのうちのひとり。糸の恋人であり、作家でもある彼の書いた小説『光る鯨』は彼女たちのことを書いた。

15年前の交通事故で両親を失った糸は今は23歳。5歳上の姉とふたりで暮らしている。彼女は姉の転勤から東京を離れて地方に行く。この15年何があったのかはわからないけど、今彼女はコンビニでバイトをしている。失踪した彼、いないなった彼を追って糸はふたりが昔暮らしていた古い公団のエレベーターでパラレルワールドに行く。

そこは70年代に建ち、今ではもう築50年になる11階建ての団地。そして彼女はここでいなくなっていた彼に再会する。ここはあり得たかもしれないもうひとつの世界。そこに彼はいた。そこに彼女はやって来る。

人生をやり直すことはできない。違う選択をした世界は別の選択をしたからあり得なかった人生が待つほんの少しだけ違う過去。そこでふたりはまず死んでしまった男の子と再会する。彼は15年前の朝、彼女を見送ってくれたふたりのうちのひとりだ。あの日の彼は五百円玉に自分の名前を書いていた。そうしたらなくしてもお金が帰ってくると彼は言う。幼かった3人。糸はあの日のふたりと再会する。

15年前に別れた3人。彼らはそうして再会する。大人になった3人はあり得なかった再会を果たす。そして最後には両親にも。これはただそれだけの映画である。

これは悔恨の話だ。幼い日の人生を左右する出来事の前の一瞬の別れ。またね、と手を振ってから15年。空を飛ぶ鯨はあり得ないけど、そんな鯨が見せてくれた夢の再会のドラマ。

すべてが夢で現実は姉妹が東京を離れていくことだけなのかもしれない。幼なじみのふたりの男の子たちも、もちろん事故死した両親もいないし、彼女たちを導く天使かもしれない女の子もいない。壮大な夢物語。いや、彼女が見た夢のお話。夢だからすべての不思議が納得いく。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 秋川滝美『ひとり旅日和 道... | トップ | 『散歩時間 その日を待ちな... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。