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映画・演劇のレビュー

『すーちゃん まいちゃん さわこさん』

2013-11-28 21:07:02 | 映画
 益田ミリの4コマ漫画を映画化したエッセイ風の作品。でも、決して軽いわけではない。描かれる問題はどちらかというと重い。30代の3人の女性が主人公。同い年ではなく、たまたまバイト先で一緒になり、仲よくなり、今も親しく付き合っている。それぞれ年代も置かれている状況も違うけど、気が合う。30歳のすーちゃん(柴咲コウ)、34歳のまいちゃん(真木よう子)、30代後半のまいこさん(寺島しのぶ)。

 映画はすーちゃんを中心にして、3人のエピソードを並行して描く。小さなお話の集合体だ。短い話はほんの数分にすらならない。(だって、原作は4コマなのだから)でも、それらが積み重なって、彼女たちの今がちゃんと見えてくる。生きているってとても大変なことだ。特段何かがあるわけではないけど、反対に何もないから、たいへんな部分も多々ある。何もないといっても平凡な毎日というわけではない。それどころか、毎日ためいきのつくことばかり。ささいないざこざや、それですらないようなささくれとか。むかつくことばかり。でも、表面的にはにこにこして生きている。だから、知らぬ間にストレスが溜まる。ストレス解消のために3人で集まってピクニックに行ったり、鍋をしたりする。気の置けない友だちとの楽しい時間が息抜きになる。これは、そんなささいなことを描く映画だ。だから、派手な描写や、ドラマチックな展開は一切ない。

 そんな映画に物足りなさを感じるような人は見なくてもいい。でも、こういう小さな日常にさまざまな発見があることも事実なのだ。とても新鮮な映画だった。ただ、そこに3人の女性がいるだけ。彼女たちが生活の中で感じる様々なことにを共感すること、それが、こんなにも感動的なのだ。ここには「どこにでもありそう」で、「特別なこと」がちゃんと描かれている。

 カフェの店員であるすーちゃんは、マネージャーの西川さん(井浦新)に少し心惹かれている。彼もまた、彼女が気になるようだ。でも、二人の関係は進展しないまま、彼は他の女性と結婚することになる。すーちゃんはオーナーから、店長を任される。悩むけど、この仕事が好きだから引き受ける。自分に自信なんかない。将来も不安だ。でも、今を生きるしかない。

 まいちゃんは出来る社員で、会社では重宝されているけど、だんだんお局さん状態に置かれる現状にいらだちがある。結婚して仕事を辞めたいと思うけど、不倫相手ではどうしようもない。関係を清算して、結婚相談所に入会する。そこで、平凡な出会いをする。

 さわ子さんは、家でWEBデザイナーの仕事をしている。ボケだした祖母と、その介護をする母と3人暮らし。結婚でもして、家を出たいと思っているけど、出会いもない。たまたま出会った幼馴染とつきあうけど、彼のことを本当に好き、というわけではない。それは相手も同じで、ただ、お互い独身で恋人がいない同士だから、というだけ。だから、決定的な行き違いが生じたとき、もう付き合えないと理解する。

 どこにでもありそうな話でしょ。でも、それが小さなエピソードの積み重ねの中で描かれていくうちに、だんだん愛おしいものになるのだ。しかも、それをことさら強調しない。この押しつけがましさの希薄さがこの映画の最大の魅力なのだ。

 8ミリで5つの日常をスケッチしたデビュー作『世界はときどき美しい』が素晴らしかった御法川修監督らしい作品だ。本当なら劇場で観たかったけど、こういう地味な映画だったので、すぐに公開が終了したので、DVDで見ることになった。見逃していたもう1本の作品『人生、いろどり』もこの12月にリリースされるようなのでぜひ、見たい。


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