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映画・演劇のレビュー

宮内悠介『暗号の子』

2025-02-05 10:23:00 | その他
8編からなる短編集である。いずれもテクノロジーの変化を取り上げて近未来を予見する作品が並ぶ。最初の『暗号の子』を読んでいてまるで書かれていることが理解できなくて焦った。知らないカタカナで書かれた単語が続出、しかも内容も理解不能。旧世代のアナログ人間には外国語を話されている気分。これは無理かも、と半分匙を投げる。だけどなんとかわからないなりにラストまで読んでいく。

専門用語続出から浮かび上がるストーリーを読み込むしかないけど、カタカナ部分は読んでも無理だから読み飛ばし、漢字とひらがなで勝負する。難しい古典の文章を読む時のパターンだ。もちろん半分くらいしか理解してないのだろう。(トホホ)

3作目の『ローパスフィルター』から慣れてきた。ハイライトは4作目の『明晰夢』だ。これは読みやすいし、わかりやすい展開で感心した。AIやSNSを題材にして今あるテクノロジーの行き着く先を予見する作品はこの先人間がどう変化するのかを考えることにもなる。現実より仮想空間がリアルになると、リアルの感触はどう変貌を遂げるのか。人は何を信じて生きることになるのか。バーチャルで満足するから他者との煩わしい関わり合いはいらない。それでも生活か成り立つ世界。あり得ないことがあり得た時、リアルはもういらない。おとなしく従順な人間が育成される。世界はどう変わるのか。

ハイライトはほとんどをAIによって書かれたという『すべての記憶を燃やせ』であろう。これだけはカタカナ表記の専門用語が一切出てこない。しかもシンプルで分かりやすい内容だ。自分が死んだ後、名前も失った体が残り、死について考える、という話。僕にはこれが一番面白かった。

と書いたが、実はこの作品の後にある3作もとても面白い。結果的にこのとっつき難いと思われて無理して読み始めた短編集はとても面白い作品集だったということになる。『最後の共有地』の亡くなった男への記録。自死した有田の話だ。彼の提唱した共有地の理論が興味深い。『行かなかった旅の記録』も亡くなった伯父の話。ネパールを旅する記録だけど、行った旅の背後には必ずし行かなかった旅がある。

そしてラストは『ペイル・ブルー・ドット』である。ここに登場する天才少年陽太くんと敦志先輩のお話は胸に沁みる。夢を諦めないとかいう安易なことではない。だけど宮澤賢治を読んだ時のような感動がそこにはあった。難しい専門知識は皆目だけど、ここに描かれる熱い情熱はわかる。宇宙にはまるで興味ないけど、賢治の夢見る銀河には興味がある。同じくらいこの短編集の目指した地平にも。『カブールの園』以来となる宮内悠介。最初はかなりハードだったけど、読めてよかった。

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