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映画・演劇のレビュー

『カノジョは嘘を愛しすぎてる』

2013-12-27 20:58:34 | 映画
 音楽業界を舞台にした恋愛映画なのだが、シリアスなストーリーのはずなのに、突っ込みどころ満載のストーリーで、さすがにしらける。主人公2人はとても魅力的で、新鮮。特に新人の大原櫻子が、芝居は当然下手だけど、そこが反対にいい。相手役の佐藤建が、上手いからバランスがいい。ふたりとも下手では目も当てられないし、上手過ぎてもわざとらしい。だからこれで丁度いい。彼らのぎこちないやりとりを通して、想いがちゃんと伝わってくるから、納得できるし、嫌いではない。ただ、あまりに嘘くさいのはやはり気になる。『タイヨウのうた』の小泉徳宏監督なので期待したのだけど、少しがっかりだ。

 大好きだった音楽が、嫌いになる。趣味ではなく仕事として、事務的に向き合うことで、楽しかったことが、苦痛になる、ということって確かにある。根底を流れるには、そういう誰にでもある気持ちだ。芸能界のあれこれが、なんだかあまりに単純すぎて、いくらなんでもこんな簡単にメジャーデビュー出来ますか、とか思うけど、才能がある人って、確かにいるだろうし、そういう才能を見つける人もいる。ただ、もう少しそこにリアリティーは欲しい。安易すぎて、嘘くさい。特に音楽プロデューサー役の反町隆史が惨い。

 少女マンガの映画化だし、安易な展開は目を瞑るけど、ふたりのそれぞれの想いと、自分の夢に対する誠実な気持ちがどう絡み合うのか、もう少し突っ込んで見せて欲しかった。ロンドンに逃げるだけでは、納得しない。自分のことを誰も知らない場所に行き、もう一度音楽と向き合いたい、というのはわかるし、彼女がメジャーデビューするのを、陰ながら応援するという選択もわかる。だが、折れそうな心を支えてくれた彼女に対して、何が出来たのか。想いを歌にして託すとか、言ってもあれだけでは普通は納得しないよ。

 高校生の女の子と付き合い、彼女に影響を与える。でも、気づくと、自分のほうが彼女を必要としている事実。彼がそれをどう乗りきるのか、が見たかったのに、そこは置き去りにして終わる。音楽は生活の手段ではない。生きるための支えだ。では、彼女の存在は何か。最初は音楽と関係ないところで彼女と出会ったはずだった。彼女が歌うのを封じたくらいだ。でも彼女の歌を聞き、圧倒される。そこから両者の逆転が生じる。自分が彼女をプロデュースしたいと思う。だが、出来ない状況に陥る。こういうストーリーは悪くはないと思うのだ。後はそれをどう展開していくかである。しかも、彼の心情をベースにして、だ。

 残念ながら、表層をなぞっただけで終わってしまう。佐藤健はとてもいいのに、台本が彼の心情にまで踏み込まない。主役の2人がこんなに頑張っているのに、これではあまりに残念だ。だいたい芸能記者にスクープされてそれを握りつぶして、とかいう展開もあんなに公然と2人が逢っているから、意味を為さない。


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