
阪神淡路震災直後を描く(といっても、仮設の話だから当然半年は過ぎてからの日々)Gフォレスタの旗揚げ公演作品である。仮設住宅を舞台にしたこの作品は今回で5度目の再演となる。そしてこれをファイナルにする。あの日被災したすべての人たちに丸尾拓が祈りを込めて捧ぐ。
この30年、節目節目にあの頃を振り返るために(5年ごとに)上演してきた。作品としての完成度は決して高くはない。この明るさと唐突な展開は最初見た時には違和感があった。だけど丸尾さんは敢えてブラッシュアップすることなく、この甘い展開をそのままで再演する。最初の想いを大切にするからだ。あの時感じたまま、何度もそこに立ち返る。もちろん役者の変更は当然ある。そこに流れるのは25年の歳月である。
1995年の5月、尼崎に出来た仮設住宅にやって来た住むところを失った人たちと彼らの援助をするボランティア・スタッフの交流を描く。尼崎は酷い被災からは免れた地区で仮設の周りとの温度差がある。そんな微妙な現実を背景にした。繊細なお話をコミカルに描く。笑いを満載にして、ツライ日々を乗り切るそんな3年間のスケッチである。
Gフォレスタはこの芝居をなんと四半世紀5年単位での再演を繰り返してきた。先にも書いたが、丸尾さんは敢えて今回を最後にすると断言した。もちろん彼の中で震災は30年という歳月を経て風化することはない。
初心に帰ってもう一度あの親子の弱さを見つめる。今ではベテランになった山﨑修一と劇団の要、田中幸彦が見せる。この一見唐突な展開こそこの作品の要でもある。震災から3年の日々を経て、ある仮設での親子心中未遂という重い話をラストに置く。
今回、冒頭に朗読を配した。震災直後のある家族の光景が生々しく描かれる。芝居の前にこのエピソードを見せることでこれを過去の出来事やある種のファンタジーにはしない。明るく前向きな人たちの姿を通して、あの日々を乗り切る彼らのドラマを今一度体感する。