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映画・演劇のレビュー

『ベネデッタ』

2023-02-22 09:43:08 | 映画

祖国に戻ったポール・ヴァーホーベンはアメリカ時代のような商業映画とは一線を画する自分が撮りたい映画を自分のやりたいように作る。今年御年84歳なのに、旺盛な創作意欲は損なわれることなく絶好調だ。『ブラックブック』『エル ELLE』に続き今回もまたあり得ないような映画を堂々と作る。顰蹙を買うことなんて意に介さない。エロ下品で、崇高。アメリカ時代の『氷の微笑』は『ショーガール』だって決して褒められたものではなかったけど、あれでもここまでの自由度はなかったのかもしれない。当然『ロボコップ』や『スターシップ・トゥルーパーズ』のようなSF映画が彼の代表作ではない。

彼はなんでもありで、あらゆるジャンルに挑戦するが、何でも屋ではない。それどころか描くものには一貫性がある。でも決してアート志向ではない。今回もまたそんな彼らしさが全編を覆い尽くす怪作だ。そして今回もまた狂気の女が主人公だ。

17世紀のイタリア、6歳で修道院に入り、生涯を神に仕えた女、ベネデッタが主人公。やがて成人し、聖女と崇められ、若くして修道院長に就任する。キリストが彼女のところにやってきて彼女を助けるとか、ありえない奇跡を連発する。嘘くさいけど、堂々としている。聖痕を受け、イエスと繋がる。大胆にも性的な関係すら匂わせる。生臭い描写も多々ある。修道院に逃げ込んできた若い女と密かに関係を結ぶ。大胆で、奔放。修道女なのに。いや、修道女だからこそ。胡散臭い奇跡を起こす。でも、それは本当のことかもしれない。狂言でも嘘でもなく、事実だとしてもそれはあまりに胡散臭すぎる。

やがて告発され、教皇から火炙りの刑に処せられるが、動じない。正義は自分のほうにあるから。町の人々も教皇より彼女を支持する。ペストが猛威を振るう中、真実の正義は彼女のもとにある。だからクライマックスでは、民衆から暴力を振るわれる教皇、助け出されるベネデッタという図式が提示される。でもそれは正義の勝利ではない、ただの暴動で、混沌のなせる業だ。

何が正しくて何が間違いであるとかいうわかりやすい決着はいらない。終盤は理不尽なペストの脅威を背景にして、圧倒的なスペクタクルをさらりと見せる。教皇がペストに罹災し民衆からその事実が暴かれるシーンは圧巻だ。同性愛も赤裸々と描き平然としている。「暴力とセックスと、教会の欺瞞を挑発的に描く」(チラシの宣伝文句)というより「ひとりの女の(傲慢なまでもの)意志の強さを描いた」映画。これはひとりの女が自分を強引に押し通すさまを描いただけの映画なのだ。そんなわがまま女の生涯をこれだけの大作映画として作れるヴァーホーベンの自由自在さに驚嘆する。いいとか、わるいとか、そんなのはどうでもいい。ただただ凄い。


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