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映画・演劇のレビュー

飛鳥井千砂『君は素知らぬ顔で』

2010-06-12 23:47:35 | その他
 高校1年生の女の子を主人公にした、小さな初恋ですらないようなお話からスタートする。リレー形式で描かれる6つのエピソードは、それぞれ主人公が違うし、描かれるシチュエーションも様々である。しかし、そこには共通するものがある。子役タレントであった「ゆうちゃん」が芸能界にもまれながら成長していく姿がドラマの中に挟み込まれてあることだ。子役からアイドルタレントに、やがて本格女優として成長する。そんな彼女をTVドラマや、芸能ニュースを通して誰もが横目で見ながら、自分たちの現状と向き合っていく。
 

 飛鳥井千砂が描くドラマはとても居心地がいい。リアルだけど、シビアではない。人生そのもののような優しさがある。どれぞれのエピソードの主人公たちは自分たちの現状の中で最大限の努力をしている。なのに報われない。でもその報われないことのイライラするのではない。起きてしまったことは受け入れる。自分の置かれた状況を恨まない。ましてや自分のした選択を後悔したりはしない。そんなこと当たり前のことではないか、とは言わないでもらいたい。僕たちはいつも自分の選択が正しかったか、不安にかられて生きている。でも、やってしまったことはもう取り返しはつかない。だから、いつも前を向いて先を見つめるしかないのだ。この短編集の主人公たちはそういう意味で実に潔い。
 

 母子家庭で育ち、周囲とうまくつきあえない少女の話。些細な事件がきっかけでひきこもりになる大学生の話。結婚し、仕事を辞めて家庭に籠もっていた主婦が働き始めることで自分らしさに目覚める話。美人で、みんなからちやほやされて生きてきた女性が、30代の半ばになり、自分はひとりだと自覚させられる話。恋人の暴力に抵抗できなかった女の話。そして、最後は「ゆうちゃん」自身の話だ。

 人生なんて上手くいかないことの連続だ。でも、みんなそんな中でそれぞれ精一杯に生きている。ここに描かれる話はとても小さなお話ばかりだが、その小さな世界の中で、なんとかして自分らしく生きようとしている姿は、この本を読んでいる僕等を元気にしてくれる。


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