
定時制高校に通う21歳。高校くらい卒業したいと思うけど、続かない。彼はまともに文章が読めないから、勉強が出来ない。バカだからこうなると思っていたがそうではなかった。ディスレクシアというらしい。これは病気なのだ。だが誰もそれに気づくことなく、彼自身は自分がバカだからだと思っていた。高校の担任はそれを教えてくれた。そして科学部を作りたいから、入らないかと誘ってくれた。「なんだよ、科学部って、」と思う。学校を辞めるつもりだったのに止まった。それだけじゃなくて科学部に入っている。
そんな彼の話から始まってさまざまな事情を抱える生徒たちが描かれていく短編連作スタイルの長編作品だ。最初の章で岳人が,それから後には残りの3人の話が続く。科学部の4人だ。
それぞれさまざまな問題を抱えながら定時制高校に通う。ひとりひとりと仲間が増えていくパターンは『七人の侍』と同じ。よくあるパターンだ。だけど世代も置かれた環境も違う弾き出された4人と、さらには昼間の高校に所属するひとりまでが助っ人に加わって彼らの壮大なプロジェクトは動き出す。彼らを集めた担任の藤竹先生はこれは実験なんだ、と言う。彼の話がみんなをひとつにする6章からラストの7章まで。感動的なドラマが展開していく。最後は涙が出て困った。
昔2年間定時制高校で教えていたことがある。そこにはこの小説と同じようにさまざまな世代の人たちがいた。読みながらなんだか懐かしく感じる。まだ30代だった頃、当時働いていた高校の校長から頼まれた。仕事の後、週に2日定時制で授業してくれ、と言われた。もちろん引き受けた。あそこで見たこと、経験したことはその後の生き方に影響を及ぼした。そこでの体験は新鮮でいろんなことを教えてもらった。しんどかったけど、若かったから楽しかった。
自分からは出会うことはない子どもたちと出会い、知らないことを知る。そこから新しい出会いが始まる。彼らはそれでも学校に行く。そこには確かに「何か」がある。そんなことを改めて思う。