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映画・演劇のレビュー

『やぎの冒険』

2011-03-28 22:42:19 | 映画
弱冠14歳の中学生監督、仲村颯悟の登場である。冗談ではない。そんな子供が、なんと劇場用長編劇映画の監督としてデビューした。もうこれ以上若い映画監督の誕生はないだろう。これが限界だ。これだって、たくさんの大人の援助がなくては成立しなかった。だが、そんなことはどうでもいい。この少年のみずみずしい才能を信じて、大人たちが彼を支えることで、この小さな映画は生まれた。そして、沖縄発、長編劇映画として、全国公開される。それって、すばらしいことだと思う。

大森一樹が27歳で、『オレンジロード急行』で劇場用長編劇映画の監督として商業映画デビューしてからもう30年以上経つが、これはあの時と同じくらいの快挙であろう。時代はとうとうこんなところまでやってきてしまったのか、と驚く。

この作品を映画としてどうこう言うつもりはない。大人の手による部分と、本人の意思との間にはかなりギャップがあったようで、作品としては必ずしも成功しているとは言い難い。作家としての明確なビジョンが見えない。原作となったオリジナル短編作品(『やぎの散歩』)のほうは仲村監督が自分でカメラを廻して作ったはずだ。きっとこちらの方がおもしろいのではないか、と思われる。(まぁ、見ていないくせにかってに憶測で語るのは問題あり、なのだが)

少年の旅立ちを描く冒頭部分のそっけなさ。そして、田舎での日々のスケッチ。それはいいのだが、その後の、大人達のドラマがつまらない。特に選挙がらみのところはとってつけたみたいだ。そこから、ラストの逃げ出したやぎを追いかけて2人の少年が旅をするエピソードへのつながりが、ちょっと唐突すぎる。森の中で一夜を明かすクライマックスも思ったほどには盛り上がらない。

デジタルによる映像は平板で、描かれる風景の美しさを捉えきれない。予算の関係もあるが、出来ることならフイルムで撮影して欲しかった。だが、冬の沖縄を舞台にした映画って、今までなかったと思うから、それはそれで貴重かもしれない。少年の冒険はいつも夏、と相場が決まっているのに、この映画は冬休みの帰省である。めずらしい。

ひとりで都会の那覇から、バスを乗り継ぎ、田舎のおじいとおばあのところまでやってくる。そこでの日々の中で、食用に飼われていたやぎが、その目的通り食べられてしまうのを見た少年は衝撃を受ける。このエピソードを中心に据えて、この小さなドラマは展開していく。

少年の今の目線から描かれていくのはいい。だから、よくあるようなノスタルジックな映画にはならないのがいい。だが、そこまでである。もっと自由に彼に撮らせてあげたなら、どんな映画になったのだろうか。


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1 コメント

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同感! (りんご)
2011-04-04 02:03:20
初めましてですが…

同感です!!
大人の思惑が見え隠れしていて…。

YouTUBEで『やぎの散歩』で検索すると、
10分ほどの作品があるのですが、
おそらくそれが最初に撮った短編だと思います。
私は断然そちらの方が好きです。
ぜひ観て頂きたいなと思いました。
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