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経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

「深海のYrr(イール)」・・・・現代SFの醍醐味

2008-10-01 09:01:25 | 


「深海のYrr(イール)」というタイトルの本が
本屋でひっそりと平積になっているのをご存知でしょうか。
帯には・・・・、

「ドイツで、『ダ・ビンチ・コード』からベストセラー
第1位の座を奪った脅威の小説、ついに日本上陸」
福井晴敏 氏・・感嘆
瀬名秀明 氏・・驚愕
大型映画化決定

・・・・などの文字が躍っています。

でも、何よりも”驚愕”するのはそのボリューム。
500ページからの文庫版で3分冊。
出版社はハヤカワ。

ノルウェーの石油公社が深海油田探索中に、新種のゴカイを発見します。
ゴカイはメタンハイドレートに巣食い、微生物と共生して、
瞬く間に、メタンハイドレートを穴だらけにし、
大量の氷状メタンが一斉に気化して、大陸棚斜面の大崩落を引き起こします。
それに伴い発生した大津波は、ヨーロッパの沿岸部を壊滅させます。

同じ頃、カナダやアメリカの沿岸では、鯨やシャチが船舶を襲い始めます。
フランスではロブスターから毒性の強い藻類が蔓延して人々の命を奪います。
さらに、主要航路の船舶事故が多発し、海底ケーブルは寸断され
アメリカの沿岸部は、殺人藻類を運搬する無数のカニの襲撃で、陥落します。
世界は混乱の渦に巻き込まれます。

この、異変に早期から気づいていた、
海洋生物学者、微生物学者、海洋地質学者、鯨の行動研究者が
米軍の要請で一同に会し、調査に乗り出します。

「海は何故、突然、人々に敵対し出したのか?
 これは、テロなのか?」

ここまでが序章です。
しかし、どうやら、この攻撃は人為的なものでは無く、
深海の知性体によるものらしい・・・・。
そこから、人類の存亡を掛け、深海知性体とのコンタクトが始まります。

・・・・と、あらすじだけ書けば、
「アビス」であったり「コンタクト」であったりしますが、
この本の凄い所は、その圧倒的な科学的情報量と
徹底した人物描写の細やかさ、
そして構成の確かさ。

底流に流れるのは、安易なSF小説やSF映画への批判であり、
表面的には、映画化も視野に入れた、壮大なスペクタクル。
最新の遺伝子工学から、ニューロサイエンス、深海技術までてんこ盛り。
科学に興味さえあれば、現代最高のエンタテーメント小説に仕上がっています。

文庫本1500ページを一気に読めてしまいます。

SF小説が売れなくなってから久しくなります。
かつてワクワクしながら読んだSFの世界は
ハリウッド映画にも、日本のアニメにも氾濫していて、
苦労して文字で読むジャンルでは無くなってしまったのでしょう。

しかし、SF小説だって捨てたものではありません。
映画ではむしろチャチに見えてしまう、壮大な自然の光景を
確かな筆致で、視覚的に描くこの小説には脱帽です。

「安っぽいハリウッド映画にだけはならないで欲しい」と願うばかりです。

PS

読後感は・・・環境ホルモンの元祖である「沈黙の春」を書いたレイチェル・カーソンの
「沈黙の春」よりも数段名著の「われらをめぐる海」の読後感に近いものがあります。
人類は宇宙空間よりも深海に対して無知であるという事への衝撃。

エコロジー・エンタテーメントSFという新ジャンルの登場です。
この本がベストセラーになる、ドイツという国の知性にも驚きです。

PS

映像作品も頑張っています。
多元宇宙論を扱った、新海誠の「雲のむこう、約束の場所」などは
映像作品ならではの驚きと美しさに溢れています。
小津安二郎とアンドレイ・タルコフスキーを彷彿とさせ、ワクワクします。

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