■ フローとストック ■
現在の経済は、実体経済以上に資産市場が巨大になっています。
物やサービスを生産して消費する循環の過程で発生するお金をフロー。
株や不動産、債権などの市場で発生するお金をストックと言います。
かつての経済はフロー中心で運営されていました。
景気循環という形での好景気、不景気の波はあっても、
量が有限で、価値の合意形成が容易な実物に対する「値段」は、
戦争や極端な不作でも無い限り、現実の価値からそれ程遊離して膨らむ事はありません。
フロー中心の社会で極端なインフレが発生する場合は、
極端な供給の減少か、極端な通貨の増刷が原因となります。
一方、資産市場のストックにもかつては制限がありました。
不動産などは、その土地や建物が生み出す経済価値に対して値段が決まります。
株式も、企業の収益や企業価値に対して値段が決まります。
ですから、資産市場でインフレ(バブル)が発生する為には、
やはり、通貨の増刷など、極端な資金供給の拡大が原因となります。
■ 金融革命はストックの変質をもたらした ■」
証券化や複雑なデリバティブ取引に代表される金融革命は、
ストックに質的変化をもたらしました。
株や不動産はある程度「リアル」な価値を持つものとして、
価格の判断も現実的になります。
ところが金融商品という実体の無い紙切れの価値は「利回り」で決まります。
サブプライムローンの時に明らかになった様に、
複雑な金融商品は、その商品の内容を把握する事がほぼ不可能です。
ですから金利だけを見て、をれを商品の価値として判断しがちです。
さらに、流動性が極端に高まった事から、
売り抜けてリスクを軽減できる事が、リスク判断を甘くします。
こうして、金融革命によってストック市場は急激に規模を拡大し、
実体経済に対する影響力を高めて行きました。
■ 先進国の成長の限界をストックの拡大で打破する試み ■
経済はある程度発展すると、効率の限界に到達して成長が鈍化すます。
効率を決める要因には、生産性や資源の有限性といった生産サイドの限界と、
物質的豊かさに飽和して需要が伸び悩む、需要サイドの限界が存在します。
人間は物欲の塊なので、需要に限界は存在しない様に錯覚しがちですが、
需要を生み出すのは、所得である事を考慮すれば、
需要に限界あある事は容易に納得出来ます。
「所得を増やせば需要は増えるだろう」というのが昨今の論調ですが、
これを簡単に達成出来れば、世界に不況など存在しません。
現在のリフレ論者に代表される金融緩和推進派は、
ストックのフローに与える好印象をことさら強調しますが、
ストックの拡大が無いほうする問題点をあえて口にする事はありません。
■ スットックに依存する経済 ■
アメリカ経済が本格的にストックに依存する下地を作ったのはレーガン政権です。
レーガノミクスは減税と財政政策というケインズ的政策と、
金融緩和や規制緩和といった新古典主義経済学の合わせ技でした。
資金供給の増大と、ストック市場の拡大が同時に行なわれたのです。
この結果、どなったかと言えば・・・・
1)減税によって富裕層に富が集中する
2)富裕層の消費し切れない資金は株式市場でバブルを生み出す
3)1987年のブラックマンデーで株価が暴落する
4)経済への影響を避ける為、FRBが資金供給を拡大する
5)1980年代後半、不動産バブルが生まれる
6)不動産バブルが崩壊して、FRBが再び資金供給を拡大する
7)1998年からFRBが金利を引き下げる
8)1999年から2000年に掛けてITバブルが発生する
9)ITバブルが崩壊し、FRBが長期に渡り金利を引き下げる
10)サブプライムローンが破綻し、リーマンショックが発生する
11)FRBが大規模な金融緩和を実行する
金融緩和や規制緩和で急拡大したストック市場は
FRBが緩和的政策を行なうと、その2年後くらいに市場が過熱します。
そこでFRBが縮小的政策に舵を切ると、バブルは見事に崩壊します。
その後。FRBは経済を下支えする為に緩和規模を拡大します。
その後は景気が回復しますが、景気循環で景気後退期に入ると
再びFRBは金利を引き下げ、その2年後くらいに再びバブルが崩壊します。
この様に、ストックに依存する経済では、
中央銀行の緩和的政策でバブルが発生し、それが崩壊する事が繰り返されています。
そして問題なのは、政府やFRBが金融機関を救済する為に、
バブルの規模は回を追う毎に拡大し、破壊力が増してきていることです。
■ リーマンショック後の中央銀行の量的緩和でストック市場はバブル状態 ■
これまでは10年周期でバブルの生成と崩壊が繰り返されて来ました。
しかし、リーマンショック後、各国中央銀行はこれまでに無い規模の金融緩和を実施しました。
その結果、ストック市場のバブル化は、かつて無いスピードで進行しました。
歴史が物語る様に、ストック市場のバブルは
中央銀行が資金供給を縮小すれば必ず崩壊します。
■ フローの限界をストックで補う愚行 ■
短期的にはストック市場の拡大は、フローの拡大に貢献します。
しかし、長期的にはストック市場の崩壊が、フロー市場をも巻き込み、
被害を修復不可能な程に拡大します。
結局、経済は実態経済の成長力以上には成長できず、
それをストック市場という実体の無い市場で無理に拡大しようとすると、
バブルの崩壊が起こり、実体経済が必要以上に被害を被る事になります。
水は高い所から低い所に流れて安定しますが、
お金は金利の低い所から高い所に流れて滞留します。
しかし、ついには重さに耐えられなくなり市場自体が崩壊します。
金利差が自然に発生する場合は被害が少なく、
恣意的に金利差を拡大すれば、被害が増大します。
多くの経験から、ストックを経済成長に利用するリスクは明確ですが、
短期的な利益と、勝ち逃げを目論む者達は、
決してこの危険な賭けを止める子事はありません。
アベノミクスがレーガノミクスを標榜する限り、この呪縛からは逃れられません。
しかし、アベノミクスの行く末を案じる前に、
アメリカがQE3の縮小で躓くはずですから
日本の国内事情を注意深く見守っても意味はありません。
全ては、FRBの出口戦略によって決まるのです。
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